急変する事業環境、次々現れる破壊的テクノロジー。「両利きの経営」が不可欠に
「現在、私たちは“イノベーションの第三世代”を生きている。私が参加した第一世代は、ルールを破りイノベーションに挑戦する“個人”が牽引する「英雄の時代」だった。第二世代では、そこにインキュベーターやアクセラレーター、その他の支援的な要素が導入された。しかし、最も効果的で変革的なイノベーションは、システマティックなイノベーションを特徴とする第3世代にあると私は信じている。今日はそのためのプロセスについてお話ししたい」
そう語り講演の幕を開いたスティーブ・ブランク氏は、「20世紀型企業の多くは時代のスピードに対応できていない」と問題を提起する。グローバル化が進み、スタートアップ企業でも大企業並みの資金調達が可能となった今、競争は激しさを増す一方だ。その上、ブロックチェーンや生成型AIなどに代表される“破壊的テクノロジー”が毎年のように登場している。こうした急変するビジネス環境に大企業がついていくためには、システマティックにイノベーションを生む必要がある。
その一つの手法として「両利きの経営」が挙げられる。これからの大企業は新規アイデアの探索と既存ビジネスの深化を戦略的に両立していく必要がある。これがどちらかに偏ってしまってはいけない。
「長期的な利益を生むためには探索が必要ですが、今日や明日の利益を生み続けるためには深化が欠かせません。たとえるならば、深化で得られるのは給料、探索で得られるのは将来の年金ですね」
“イノベーション劇場”からの脱却には何が必要か
ブランク氏が持つ2つ目の課題意識は、大企業のイノベーション活動そのものについてだ。過去10年間に行われた様々な取り組みの多くは、言うなれば「イノベーション劇場」であったと同氏は説明する。顧客への価値提供やその結果としての収益・利益は実現されず、“やった感”だけが演出される活動が多かったというのだ。
イノベーションというのは、インキュベーションでも、アクセラレーションでも、オープンイノベーションでも、スタートアップでも、そしてリーンスタートアップでも、ましてやマトリックス組織への再編でもない。これらは「手法」や「活動」に過ぎず、イノベーションを保証するわけではないからだ。
重要なのは、様々な活動に従事することそれ自体ではなく、効果的かつシステマティックにイノベーションを「実現」することだとブランク氏は強調する。