必要以上に高度な人材を求めていないか
前回の記事では、誤解されがちなDXの「本義」とともに、DXを推進する上で各社が悩む「人」に関して、失敗例を交えながら解説してきた。今回の記事では、より踏み込んで人材育成やDX組織の形成におけるポイントを紹介していく。
前回、DX人材を外部から採用する際には、経営者が自社の課題を理解して、どのような人材が必要かを知る必要があると解説した。特に昨今は、AIに関する専門技術やデータサイエンティストを求める声をよく聞く。もちろん、DXを推進してデータの利活用を推進していく上では、そうしたスキルを持つ人材も必要だ。
しかし、まだ実際のAI活用やデータ分析といったフェーズまで進んでいない日本企業は多いはずだ。IPA(情報処理推進機構)の『DX白書2021』によれば、日本企業がDXにおいて感じている課題のトップは「人材の確保が難しい」(41.5%)であった。これは前回の記事で私が指摘した、DXにおける最大の壁は「人」であるという主張を裏付けるデータといえるだろう。
注目したいのは、その次に回答が多かった項目だ。2位は「全社的なデータ利活用の方針や文化がない」(37.3%)、3位は「データ管理システムが整備されていない」(31.5%)であった。さらに、「既存システムがデータの利活用に対応できない」(20.8%)という回答にも多くの票が集まっている。
これらの調査結果は何を意味しているのだろうか。私は、多くの企業が自社の現在置かれているフェーズを飛び越えて、必要以上に高度な人材を求めてしまっていることを示しているものだと考える。
そもそもDXを進めて、最終的な目的である組織全体のトランスフォーメーションを完遂するには、いくつかの段階がある。前回の記事で紹介したDXの4象限を思い出してほしい。
DX2.0がゴールだとすれば、まずDX1.0、すなわちIT化(デジタイゼーション)として、ペーパーレス化など既存業務をデジタルへ置き換えていく必要がある。次の段階が、DX1.5であるIoTやデータプラットフォームの活用を通した可視化やデータの分析だ。
先ほどの調査を基に考えてみると、日本企業の多くはまだDX1.0〜DX1.5の段階にあるといえる。こうした状況で、高度なDX人材を外部から採用しても、本来の効果を発揮できるかどうかは大きな疑問符がつく。