DX推進に必要な人材とスキル要件
「社内にDX専門家がいない」「人材不足からDXを諦めている」といった声を多く耳にします。
DXを成功に導くためには、IT・デジタル知識に加え、プロジェクトマネジメントやデータ分析など幅広いスキルが必要です。これらの役割はIT部門に留まらず、事業企画やセキュリティ担当、エンジニアなど多岐にわたります。そのため、社内で全方位に対応できる「スーパー人材」を育成する、もしくは経験者を採用することは非常に困難です。
私たちは、DX推進の鍵を「変革を推進できる人材」として、「Xist（エグジスト）」と定義し、そのスキル要件を体系的に整理してきました（前回参照）。
「Xist」に必要なスキル体系では、従来必須とされてきたIT知識以上に、以下のスキルを重視しています。
- 変革をリードするための広い視野と業務理解
- 多くのステークホルダーを巻き込む調整力と柔軟な思考
- ビジネスへのインパクトを理解した企画やプロジェクトの遂行
変革は「聖域」にメスを入れるようなものであり、長時間と労力を要します。そのため、中長期的な視点で計画を策定し、実行、定着化まで走り続けるためには、バランスの取れたスキルのベースラインが必要です。そこで重要なのは、自社の変革に不可欠なDX人材のスキル要件を見極めることです。
この記事では、DX推進に必要な具体的なスキル要件について説明し、社外から優秀な人材を採用する方法以外にも、既存社員から育成対象を探し育てる方法があることを、事例を交えてお伝えします。
DX推進の鍵「デジタルバリューチェーンスキル」の概要
デジタル活用の成功と変革を推進するには、非常に幅広いスキルが要求されます。そのため、一気にゴールを目指すのではなく、着実に一歩ずつ積み重ねていく必要があります。具体的には、DXロードマップに沿った人材育成・採用計画の策定が重要です。この計画を立てる際に参考となるのが、体系的に整理されたスキル一覧です。私たちは、これまでのDXプロジェクト支援を通じて、DX推進に必要なスキルを体系化したものを「デジタルバリューチェーンスキル」と呼んでいます。
11のカテゴリーに分類したスキル内容は、テクニカルなIT知識に偏らず、DXの「X」、つまりトランスフォーメーション（変革）の実現に向けた重要なスキルを集めています。これには、DX戦略やビジョンの策定、具体的な課題の抽出と優先順位のつけ方、プロジェクトマネジメント、導入した仕組みの定着に必要なチェンジマネジメント、そしてDXによって得られたデータやノウハウを新規ビジネスとして販売する事業化スキルなどが含まれます。これらのスキルは、戦略・業務知識・IT知識をバランスよく網羅している点が特徴です。
自社の現状と、ロードマップ上で将来的に必要となるスキルをこの体系に当てはめてマッピングすることによって、必要な人材像が浮かび上がってきます。
たとえば、優先度の高い課題がペーパーレス化なのか、収集したデータ活用による新規事業の立ち上げなのかによって、必要なスキルセットは異なります。それを踏まえた上で現状課題と目標設定を行うことで、計画的な育成や採用が可能となります。
なお、人材のスキル定義に「バリューチェーン」という表現をあえて取り入れているのは、製造業でいうサプライチェーンの各ビジネスパートを連鎖的に理解し、全体最適を図るという考え方を踏襲しています。つまり、DXによってデジタルを活用しながらビジネスの価値をつなげ、変革によって最適化と価値の向上を目指すという意味を含んでいます。
次ページでは、デジタルバリューチェーンのスキル体系の中で、最近その重要性が認識されつつある「チェンジマネジメント」のスキルを活用し、実際にビジネスの価値向上に成功した企業の事例を紹介します。
