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Biz/Zine Day 2025 October

AI全振りのソフトバンク、現場主義の双日。両社が直面した「AI定着の壁」と乗り越え方

登壇者:ソフトバンク株式会社 藤原竜也氏、双日株式会社 宮脇俊介氏、d-strategy,inc 小宮昌人氏

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 生成AIの業務活用が企業の競争力を左右するが、多くの企業が「PoCは行ったが定着しない」「現場がAIを“自分ごと化”できない」という壁に直面している。本稿は、DX銘柄2025選定企業(31社)の中でグランプリを受賞したソフトバンクと、同様にDX銘柄2025に選定された双日、両社のキーパーソンを招いたBiz/Zine Day2025内のセッションレポート。登壇者は、ソフトバンクでAI/DX人材育成を率いる藤原竜也氏と、双日で「Digital-in-All」戦略をけん引する宮脇俊介氏。「AIを最も使いこなす」IT企業と「フィジカル(現場)」を持つ総合商社として、両社は「AIが定着しない問題」をいかに乗り越え、組織と人材を動かしてきたのか。その戦略に迫る。

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「AI全振り」のソフトバンク、「Digital-in-All」の双日

 セッションは両社のAI戦略の共有から始まった。

 ソフトバンクの藤原氏は、「経営トップ、孫(ソフトバンクグループ会長兼社長)も含め、これからはAIに全振りしていく気概で進めている」と切り出した。そのテーマは「AIを最も上手に使いこなし、次世代の社会インフラとなる」ことだ。日本語特化型LLMの開発、北海道や大阪でのAIデータセンターの構築、国内最大級のAI計算基盤整備といったインフラ投資を、同社は加速している。

 さらに、OpenAI社との「クリスタル・インテリジェンス」構想も進む。これは業務自動化にとどまらず、企業の「意思決定」そのものを支援し、経営変革を促すもの。「長期記憶によるナレッジの継承」「主体的に動くAIエージェント」「リアルタイムの意思決定支援」などを特長とする。

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ソフトバンク株式会社 IT統括 AIテクノロジー本部 AI&データ事業推進統括部 Axross事業部 部長 藤原竜也氏
2016年にソフトバンク株式会社に入社し、法人向けソリューションエンジニアとしての経験を積む。2019年に事業開発部門へ異動し、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを含む国内外の投資案件のリサーチ、出資検討、出資先の事業支援、ソーシング等に従事。同時期にソフトバンクグループ社内起業制度「ソフトバンクイノベンチャー」で新規事業を立ち上げ、2020年にAxrossのβ版をリリース。2022年に事業化し、現在はソフトバンク IT統括 AIテクノロジー本部で法人向けAI/DX人材育成・業務支援サービス「Axross Recipe」の事業責任者として事業を執行。ソフトバンクグループの後継者およびAI群戦略を担う事業家の発掘・育成を目的とした「ソフトバンクアカデミア」に在籍し、「ソフトバンクユニバーシティ」の認定講師も務める。

 一方、総合商社の双日のAI戦略は、現場の課題解決に立脚する。宮脇氏は、ファイナンス畑からキャリアチェンジした背景に、ロンドン駐在で目の当たりにした「ものすごいスピードで起こる金融業界のデジタル・ディスラプション」への危機感があったと語る。

 双日は、中期経営計画2026では、全ての事業とデジタルの一体化を前提とした「Digital-in-All」を掲げ、デジタル技術の徹底的な活用を経営戦略の中心として据えている。宮脇氏は「総合商社としてさまざまな事業を展開しているが、全ての業界を対象とした事業にテクノロジーを組み込んでいくことを全社一丸となって進めている」と強調する。

事例:フィジカル空間の課題を「デジタルツイン」で解く

 双日の「Digital-in-All」を象徴するのが、宮脇氏が紹介した二つの事例だ。

 一つ目は、「マグロの養殖事業」のDX。マグロ養殖のいけすは深くて巨大なため、中にマグロが何尾いるのか知る術がなく、在庫金額が把握しづらいということが長年の経営課題だった。

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 最初の「光学カメラでの動画解析」の取り組みは、極めて困難だという結果がでた。そこでチームは「仮想空間でシミュレーション(デジタルツイン)を作り、仮想的にマグロを泳がせる」ことから始めた。このデジタルツインで機械学習モデルを構築し、AI画像解析で一定の環境下において精度95%以上を達成。このモデルに、実際のいけすの「音波(ソナー)データ」を組み合わせ、尾数のカウントに成功した。

「単に尾数を数えるだけでなく、餌の適正量や、出荷計画といった、漁業の高度化につながっています」(双日・宮脇氏)

 二つ目は中古車デジタル診断サービス事業だ。価格の不透明性が社会問題にもなった領域で、中古車を360度可視化し、車1台を丸ごとデータ化。AI画像解析で、「人間では目視が難しい外装の傷やへこみ、再塗装跡などをAI判別しデータ化」するスキャナーを開発中である。これにより価格の妥当性を図るだけでなく、「車ではなく、そこから派生するデータを流通させる」という新たなビジネスモデルを構築中だ。

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 宮脇氏は、二つの共通点を「フィジカル(物理世界)で起こっている現象を、いかにサイバー空間で再現するか。その根本にAIがある」と結論付けた。

AI導入における「仲間集め」と「定着しない」壁

 先進的な事例の裏には立ち上げの苦労がある。特にマグロのプロジェクトは、デジタルになじみの薄かった当時の双日にとって象徴的な取り組みであった。

 藤原氏の「どうやってチームを集めたのか」という問いに、宮脇氏は「内製化にこだわった」と明かす。

「社内から興味がある人を募集したところ、『機械学習を前にやったことがある』といった人が意外にいるとわかりました。彼らを、われわれのCDO(最高デジタル責任者)である荒川(朋美氏)が“一本釣り”して集め、まずは一気にやってみようと進めました」(双日・宮脇氏)

 経営層のコミットメントと、社内に眠る「隠れた才能」の発掘。これが双日のDXプロジェクトの原点だ。

 プロジェクトが立ち上がった後、次に待つのが「全社に定着しない」という壁だ。推進部門が素晴らしいツールを作っても、現場で使われなければ意味がない。いかに現場の「自分ごと化」を促し、組織全体を動かしていったのか。両者の取り組みは対照的であったが、それぞれにとって必然的な取り組みでもあった。

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双日株式会社 デジタル事業開発部 デジタル事業開発第三課 課長 宮脇俊介氏
2009年双日株式会社へ新卒入社。財務部でファイナンス業務を担当、ロンドン駐在を経てデジタル推進第一部に配属。海外でデジタル・ディスラプションを目の当たりにし、日本企業もDXを推進しなくてはならないという危機意識を持ったことがきっかけとなり現職につながった。デジタル人材の育成・活用、生成AI活用、データアナリティクスなどのPJをけん引。

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双日:選抜人材と「強制力」のハイブリッド

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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