海外M&AとPMIの現場で目にした「FP&A」の合理性
池側千絵氏(以下、池側):SOMPOグループは現在、国内損保、海外保険、国内生保、介護など多岐にわたる事業を展開されています。まずは、お二人のこれまでの歩みと、現在のミッションをお聞かせください。
広瀬杏太郎氏(以下、広瀬):私は新卒で日本興亜損保(現・損保ジャパン)に入社し、国内営業を経て海外事業へシフトしました。大きな転機は2016年のSIHの買収です。約6,500億円規模のM&Aから、その後のPMI(統合プロセス)まで関わり、ニューヨークに5年間駐在しました。
そこで目の当たりにしたのは、欧米流のFP&Aという機能がいかに合理的で効率的かという事実です。バラバラだった海外拠点を中央集権的に集約するプロセスを通じ、伝統的な日本企業の意思決定の仕組みを変えたいという思いが強くなりました。帰国後、2024年にSOMPOホールディングス(以下、HD)に「事業分析室」を新設し、現在は執行役員として経営企画部の中でFP&A機能を管轄しています。
新卒で日本興亜損保(現・損保ジャパン)入社。国内営業を経て海外事業へ。2016年のエンデュランス社買収に携わり、ニューヨークに5年間駐在。帰国後、事業分析室長を経て現職。グループ全体のFP&A体制構築を牽引する。
池側:現場の営業から、巨額M&A、そして海外での経営管理まで、まさに変革の最前線を歩んでこられたのですね。藤谷さんはいかがでしょうか。
藤谷直弘氏(以下、藤谷):私も国内営業からキャリアをスタートし、アメリカ駐在を経て、海外のビジネススクール(MBA)でファイナンスを学びました。帰国後、企業向け商品の収支管理を担当しましたが、当時はまだ現場の管理意識が弱く、改善の余地を強く感じました。
2023年に経営企画部へ異動し、2024年4月に「事業分析室」を発足。現在は30名ほどのチームを率いています。損保ジャパンという大きな組織の中で、数字に基づいた意思決定を浸透させるのが私のミッションです。
国内営業、アメリカ駐在を経てMBAを取得。アンダーライティング(保険引受)部門での収支管理経験を活かし、2024年より現職。30名規模のFP&A専任組織を率い、国内損保の収益性改善を主導する。
SOMPOホールディングスのFP&A組織立ち上げの背景
池側:海外での原体験が現在の変革につながっているのですね。今、SOMPOホールディングスがグループ全体でFP&A組織の構築を強力に推進している背景には、どのような危機感や戦略的意図があるのでしょうか。
広瀬:大きな転換点は、2024年度からスタートした現中期経営計画(2024〜2026年度)のタイミングです。それまでの当グループ、特にHDの経営体制は、各ビジネスユニットに大きな裁量を与えて自由度を高める「遠心力」を重視したものでした。このモデルは海外M&Aの成功や介護事業への進出といった多角化を加速させ、修正連結利益の約60%超を海外で稼ぎ出すという一定の成果を上げました。
しかしその過程で、国内損保事業における一連の不祥事という深刻な問題が発生しました。ビッグモーター問題や価格調整問題、情報漏えいなどを受け、当局からは「HDによる事業会社への監督が不十分であった」という厳しい指摘、つまり業務改善命令を受けるに至ったのです。これまでの「遠心力」一辺倒の経営では、グループ全体のガバナンスと規律を維持できないことが明白になりました。
池側:そこで、体制を根本から見直されたわけですね。
広瀬:はい。2024年度からは、持株会社の「FP&A機能」を抜本的に強化し、定量面から事業会社への監督を強化する体制へと舵を切りました。その中核が、グループCFO直下に配置された「グループFP&Aチーム」です。
現在の体制では、各事業会社にも「事業FP&A」を配置し、グループFP&Aチームと緊密に連携しています。これにより、現場の数字をブラックボックス化させず、HDが「経営の司令塔」として常にグループ全体を俯瞰・管理できる仕組みを整えました。
広瀬:HDが目指す姿は、自らが「コストセンターであること」を自覚した、小さくもリーンな組織です。資本配賦、IR、トップ人事、そしてこの「事業会社経営管理(FP&A)」という、HDにしかできない機能に集中する。不祥事を機に、FP&Aを「守りのガバナンス」と「攻めの資本効率向上」を両立させるための不可欠な規律として再定義したのです。
