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AI時代の両利きの経営

デンソー流「フィジカルAI」の本質──AIと人の共生による「カイゼン・技能伝承・所作」という生存戦略

ゲスト:株式会社デンソー 池田光邦氏、高田あさ美氏

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 生成AIの急速な普及により、あらゆる産業でデジタル化と自動化が加速している。しかし、製造業の最前線においては、単なる「効率化」や「人の代替」だけでは到達できない領域がある。日本のものづくりを牽引してきたデンソーが今、提唱しているのは、AIとロボティクスで人と技術がより自然に共生する未来だ。それは、ロボットを単なる道具として使いこなす段階を超え、人とAIが対話・共感し、互いの技能や感性を高め合う「共生」の世界観である。なぜ、世界屈指の技術力を誇る同社が、あえて「効率の対極」にあるかのような「感情」や「人中心」の競争軸を打ち出すのか。今回、同社のクラウドサービス開発部にてイノベーションを主導する池田光邦氏と高田あさ美氏にインタビューした。ドライブエージェント「Jullie(ジュリー)」の開発秘話から、デンソーの2030年中期経営計画「CORE 2030」にも通ずる「人とAIが学び合う」次世代工場への展望まで、その真髄を深く掘り下げる。

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フィジカルAIで目指すこと──「効率化」から「人との共生」へ

小宮昌人氏(以下、小宮):池田さんは元々、生産技術の第一線で「止まらない設備」を作ってこられたそうですね。現在、AI活用へと領域を広げられた背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。

池田光邦氏(以下、池田):私は長年、工場の現場で生産設備の開発に携わってきました。しかし、自動車業界がSDV(ソフトウェアで定義される車両)へと舵を切る中で、工場もまた「ソフトウェア・デファインド」へと進化させる必要があると確信しました。

 現在はAIが主役の時代です。私たちが取り組んでいる「フィジカルAI」は、単にロボットを効率よく動かすための技術ではありません。私たちが最も重視しているのは「人とAI、人とロボットがどう共生・共創するか」という視点です。

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株式会社デンソー クラウドサービス開発部 ビジネスイノベーション室長 池田光邦(いけだ・みつくに)氏
生産技術・計測・ロボット制御の豊富な経験を活かし、生成AIを活用した共生ロボット「Jullie」の開発を主導。技術・現場・社会を円滑につなぎ、人の創造性と働きがいを高めるテクノロジーの実装をミッションに掲げる。

小宮:一般的なフィジカルAIの定義よりも、かなり「人」に寄ったアプローチですね。

池田:はい。人間がいる世界をフィジカルと定義するならば、そこに介在するAIは人間を排除するのではなく、人の創造性と働きがいを高める存在であるべきです。

 1950年代からの歩みを振り返ると、かつてのロボットは決められた動きを繰り返す「シーケンシャル動作」のみでした。しかし2020年を境に、進化は二分されています。

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 一つはAI・IoTで高速・高精度を追求する「産業用知能化ロボット」。そして私たちが注力するのが、上記図の上方にある、人の能力を高める「人共生ロボット」です。共存し、共につくる。単なる効率化ではなく、共感し合い感性を高め合う関係を目指しています。「Jullie(ジュリー)」のような共生ロボットは、まさにロボットAIが人間と深く関わり、互いに影響を与え合うスタイルの象徴と言えます。

助手席の“共感”をロボットが担う意味

小宮:高田さんは製造DXや社内万博PJを経て、この「Jullie」プロジェクトへ参画されたとお聞きしました。ドライブエージェントという形をとったのはなぜでしょうか。

高田あさ美(以下、高田):私は大型システム開発や製造DXに従事してきましたが、認知科学の視点に触れ、AIと人の関係性そのものを設計したいと考えるようになりました。

 「Jullie」で挑戦したのは、移動体験の価値向上です。単に目的地へ安全・便利に到着するだけでなく、そのうつろう時間をいかに豊かにするか。そこで着目したのが「助手席の人」という存在です。

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株式会社デンソー クラウドサービス開発部 ビジネスイノベーション室 知能化システム推進課 担当課長 高田 あさ美(たかだ・あさみ)氏
社内での万博PJの経験をベースに、Jullieプロジェクトをプロデュース。AIとロボティクスで人と技術がより自然に共生する未来づくりをビジョンとして掲げ、広く企画・開発を推進中。

小宮:助手席の人、ですか?

高田:ええ。同じ景色を見ながら会話をし、共感することで幸せな移動を目指しています。たとえば、綺麗な景色を見て「わあ、綺麗だね」と感動を共有したり、運転疲れを気遣って「海を通って帰らない?」と寄り道提案をしたりします。

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 Jullieは、カメラを通した景色、ドライバーとの対話、走行データを組み合わせ、身体性を持ったAIならではのアクションを行います。単なるナビゲーション機能を超えて、人の心に寄り添い、移動体験を豊かにすることを目指しました。身体性を持つロボットがうなずいたり、特定の方向を向いたりすることで、人間と同じ景色を見る「共同注意」が生まれやすくなり、より深いコミュニケーションが成立するのです。

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日本企業の強みは「人のたゆまぬカイゼン」にある

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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