業界で誰も疑わなかった「ある矛盾」への気づきから
ヴォガロという会社は広告クリエイティブの会社であり、デザインやWeb制作、マーケティングノウハウのコンサルティングなどを展開してきた。今回、ヴォガロが新規事業として打ち出したのは、ブライダル業界の商品開発からその周辺のトータルビジネス。独自ブランドを作ると同時にすでにブライダル業界大手15社に採用され、さらにアパレル7社にも採用されている。
「普段使いのブライダル紳士用雑貨」というのが、その事業コンセプトである。一見、地味でニッチに見えるこの市場に、ヴォガロはどのようなチャンスを見出し、どのような価値を提案しようとしているのか?
代表取締役の米田氏は、このビジネスをはじめるきっかけは、「ある矛盾」への気づきからだという。
スーツ量販店や大手のアパレルの多くの会社と、Webや広告の仕事をしてきました。いろいろお話を伺っていると、多くの会社さんが「1円でも安く商品をつくる」とおっしゃる。ところがわれわれのような広告やWebの方には潤沢な予算があり、タレントや外人モデルを使ったプロモーションをやる。そんな現象がおこっているんですが、これはやはり間違っているんじゃないかと思い始めました。
長らく業界にいる人間にとって、商品そのもののコストを徹底的に削減し、デザインや広告のみを派手におこなうということはそれほど不思議ではないだろう。しかし、そもそも広告やデザインは「粗悪なものを良さそうに見せる手段」ではない。やはり企業は、良質な商品をこだわったユーザーに届けるべきだという、シンプルだが基本的なビジネスの発想があった。ヴォガロというクリエイティブ企業が、紳士用ブライダル雑貨の「つくる仕事」に向かったのもそうした自然な考え方からだという。
3Dプリンターが普及してデザイナーがモノづくりが出来る時代です。企業はまだまだ縦割りで、たとえばブライダル業界の場合、生産と宣伝、衣装部などは分かれていますが、われわれのような集団はそこを横断できます。もっと将来のことを言うと、IoT(モノのインターネット)のような潮流の中で、ファッションもデジタルと融合して、ウェアラブル・ファッション・アイテムみたいなものが可能になるでしょう。そうした時代に、「商品雑貨の開発」と「広報・宣伝」をトータルに捉え、戦略的な仕組みを構築していけたらと考えました。
なぜブライダル市場にポジショニングしたか
ビジネス戦略の基本は、「儲けられる市場」に着目し、そこに「位置取り」をすることだ。ヴォガロがなぜ通常は無視されているブライダル市場に着目したのか。その理由を聞くと、明解な以下の3つの条件が返された。
- ブライダル市場の最大手のワタベウェディングが千趣会傘下におさまるなど、業界のトッププレイヤーの移行期にあること
- 業界そのものがアナログ体質で、在庫管理、受発注、顧客管理すべてがアナログ体質であること
- 結婚のスタイルが多様化し、式場やスタイルの選択に対し、ファッションやデザインが重要なファクターとなっていること
こうした3つの要因を考えると、われわれがトップシェアをとれる可能性が非常に大きいと感じました。ブライダル市場を考えると、普通の考察では結婚する人は減っていくし、業界は縮小すると思われています。しかし、実際は市場自体は、成長はしないものの横這いで維持しています。結婚する年齢も上がっている。大きな結婚式場やホテルで式をあげる時代から、チャペルと披露宴会場だけのハウスウェディングと呼ばれるようなカジュアルな形式が、今は50%を超えているのです。
不況を背景に「ジミ婚」「ナシ婚」など消極的な動きがある一方で、招待客一人当たりの単価は向上しており、高品質な結婚式のニーズの高まりが見て取れる。顧客ごとのニーズを満たす高品質を売りにする業界シェアトップのT&G社は、堅調に売り上げを伸ばしているという。 このように一般的に縮小するような市場においても、つぶさに見ていくと別の成功ファクターが見いだされる。ヴォガロのウェディングビジネスの場合、それは「男性向け服飾雑貨」なのだという。
既成の結婚式場のスタイルの選択ではなく、顧客に歩み寄って、ドレスや料理はもとより、服飾、タキシードや小物まで細かく選べるようになってきました。それが結婚人口の現状にも関わらず、顧客ごとの高単価にむすびついて、市場の規模の安定の要因となっているのです。そうした高単価路線の市場では、これまでの結婚式特有のスタイルだったリースモデルから、一生ものとして購入するセルモデルに転換するニーズがあると考えました。とくに男性用の雑貨は軽視されていたジャンル。ネクタイやポケットチーフ、カフスやベルトは「日常使い」できて、質の良い物を提供したい。マーケットリーダーのT&Gさん、PLAN DO SEEさんなども、差別化していくために、セル型のビジネスモデルにシフトされています。半年という短期間で業界大手を中心に15社の取引先を獲得できたことが、そのトレンドの証明になると考えています。
生産から在庫、流通をつなぐマネジメントをデジタルで提供する。
社会全体のニーズが、「所有」から「利用」にシフトし、クラウドコンピューティングやシェアリングサービスが注目されている時代に、「レンタルからセルへ」の仮説を実行しているヴォガロ。このビジネスの成功条件のもうひとつは、クライアントであるウェディングサービス業者に、顧客や商品のマネジメントをおこなう仕組みをバックエンドサービスとして提供することだ。 従来、業界の顧客データや在庫商品管理は、Excelが中心。そこに、すぐれたUI/UXによるデジタルな仕組みを提供する。流通業で昔からあるような堅いサプライチェーンマネジメント(SCM)ではなく、統合されたデザインで使いやすいWebサービスとして自社開発したもの。これをプロダクトとともにクライアントに提供し、バリュー・チェーンを構築していく。
セル型に変えていくには、もっと商品を高速で回転させていく必要があります。売れ筋商品の把握から商品開発、ブライダルショップでのお客様への提案をつなぐシステムを今後リリースしていく考えです。これまでのブライダル業界のアナログ体質ではなく、ファッション・アパレルやセレクトショップなどが実現している高速化で商品アイテムを回転させ、トレンドを啓蒙していく流れを、商品開発も販売員も知る必要があります。
こうしたトータルなヴォガロの事業ポートフォリオは、関西とくに大阪という市場でよりはっきりと強みが発揮されてくる。
プロダクト開発、コミュニケーション、CRM、さらには人材リソースまでの4事業までを提供していると一社ごとの顧客単価は大きくなってきています。とくに関西のクライアントでは「1社まるごとおまかせ」というパターンが多いですね。それぞれのコストに対しては厳しいのですが、東京のように役割が縦割り化されていないのと、意志決定できるキーマンがはっきりしている。そういった関西特有の企業風土が追い風となって、われわれの描く事業ポートフォリオが短期間で確立できたと考えています。
広告受託を成長エンジンにしつつ、プロダクト開発からサービス提供へ。デジタルなデザインの力を持つ企業が台頭してきている 広告代理店がコンサルティング会社と提携し、デザイン会社が製品・サービス開発のコンサルティングまでおこなう時代。背景にあるのはもちろんデジタル化だ。ヴォガロのビジネス戦略も、そうした流れを象徴しているともいえる。