DXによって「PL経営」から「ジャーニー経営」へと変化する
「DX以前は目に見える数字がPLしかなかったため、PLを中心に管理する経営が主流でした。DXによってデータに基づいた原因分析ができるようになった結果、経営方法が変わっています。その新しい経営の形を私は『ジャーニー経営』と呼んでいます。アジャイルに事業を動かすために必要な経営方法で、そこではカルチャーが重要な役割を果たしています」
冒頭で唐澤氏はこう語る。
従来のPL経営では、会社は継続的な利潤を追求するために、会社のお金を“売上”と“コスト”に分解して、どの部分が重要かを見極め、KPIとして設定してきた。たとえば、新規顧客が獲得できていない理由が低い認知率だとわかると、広告を強化しようと経営層は考えるわけだ。一方で、広告コストに回すコストをどこかで抑えなければ利益が上がらなくなってしまうので、経営層はたとえば人件費である育成コストや採用を抑える判断をする。データに基づいた詳細な原因分析がないまま行うPL経営では、人件費はコストとして考えられがちなのだ。
しかし、売上をプロセスで見ていくと、別の考え方ができる。それをもとにしたのが「ジャーニー経営」である。
売上と利益は顧客ロイヤルティが作る。ロイヤルティが高ければ継続利用したり、より単価の高いものを購入したり、口コミで他の客を呼んでくれたりするからだ。そして、そのロイヤルティを生み出すのが「顧客満足(CS)」である。では顧客満足を生み出すものが何か。それは顧客への提供価値である。この提供価値は、従業員の高いロイヤルティと生産性が生み出している。従業員のロイヤルティと生産性には、採用から配置・育成・評価・報酬・環境・退職といった一連のエンプロイージャーニーの中の従業員満足(ES)が鍵を握る。
企業のデジタル化によって、これまで把握できなかったカスタマージャーニー、エンプロイージャーニーの各プロセスにおいて、データを収集できるようになった。たとえば「採用時や配置時にどう感じているか」といった、従来では可視化できなかった情報までもが、データで把握できるようになったのだ。
この場合、前述の「新規顧客が獲得できていない理由が低い認知率」というケースも、打ち手が変わってくる可能性がある。たとえば、認知率が低い理由は顧客による推奨が減ったからであり、なぜ推奨が減ったかを確認すると、CS部門の育成が足りず、ポジティブな口コミが減ってきたからとわかることもある。その場合、「人件費を上げる」という打ち手が考えられる。これは、広告強化をする代わりに人件費を下げようとしていたPL経営での判断とは真逆の打ち手だ。
デジタル化により、「従業員満足(ES)が顧客満足(CS)を作り、それが収益につながる」というプロセスも可視化できるようになった。その結果、カスタマージャーニー、エンプロイージャーニーの中で課題を見つけ、打ち手を考えることができるようになった。すると、従業員満足(ES)を上げるために従業員体験(EX)への投資が重要になってくる。
ただし、手当たり次第に従業員体験(EX)への投資を行ってはならない。まずは企業カルチャーを作り、従業員同士が相互に関係を深める環境を作っていく必要がある。それができれば、カルチャーは変革のドライバーとして機能してくるというのだ。