金融業界で起きている「破壊的イノベーション」
Uberに苛立ってフランスでは暴動が起きている。日本のメーカーが「低価格で高品質な車」でアメリカの産業にダメージを与えていた80年代に暴動が起きていたことを思い出す。自動車産業のメッカであるデトロイトでは日本車に火を放って怒りと苛立ちを隠せず暴力的な行動に出た。
「破壊的イノベーション」とクリステンセン教授が称した現象は、安泰だと信じられた産業全体を破壊する。書籍『イノベーションのジレンマ』では、アメリカの大手製鉄所が鉄くずを原料に“そこそこの”鉄鋼を生産するミニミルによって斜陽産業に追いやられた。メインフレームがミニコン、ミニコンがさらにパソコンによって破壊されてしまったという、同様の歴史を色々な産業で見ることができる。
このセオリーに対し、「ウチは大丈夫」「この業界は国の政策があるから守られている」「少なくとも定年退職までは大丈夫」というのが多くの企業担当者の反応である。しかし「技術の進化速度の向上」によって、破壊の速度は上がっている。ムーアの法則が、技術的な進化は等比級数的であることを示唆しているように、ある技術が優位であり続けられる時間は年々短くなっている。企業の寿命にも同様なことが言える。S&P500に掲載される企業寿命の平均年数は1960年には約60年、2010年には17年にまで短命化しているというデータもある。
次はどこかと色々な業界を見渡せば、「金融」にはさまざまな条件が整っている。インターネットやスマートデバイスの力を借りて決済や金融が求めやすくなっているが、金融システムそのものは長い間変わっていない。時代とシステムの隙間を求めてフィンテックがアジアでは数多く生まれている。これらのベンチャーは目立つ技術を持つとは限らないことがポイントである。業界の中の人間にとっては一見大したことのないものが、使う側や買い手にとっての「ジョブ(用事)」を解決しやすくするのであれば、「破壊的特徴」を備えているとクリステンセン教授は言う。
破壊的イノベーションを興す企業は、小さな「足がかり」から市場をとらえる。足がかりになる市場は、小さなニッチ市場かもしれないが、顧客に提供されているサービスや製品がなかったりして、現状に大きな不満がある領域だ。不満の大きな顧客に対して、ジョブを片づける上で必要十分でさえあれば、市場は受け入れる。技術はあくまでもそれを可能にするだけである。足がかりを得たベンチャーは周辺のニーズも解決できるよう改善を重ねることによって、いずれ大きな脅威になるであろう。