計画よりも偶発性、という新たな行動原理
──本連載では、誰もが日々直面する「白か黒か」といった二つの究極の選択肢(いわゆる「二項対立」)について、様々なテーマで話していきます。卑近な例では、「大企業かスタートアップか」「管理職かプレーヤーか」「組織に属するか独立するか」など、ビジネスシーンだけで考えても、私たちの前には様々な“究極の選択”がよく立ちはだかってきます。
また、社会などマクロな分野に目を向けると「資本主義か、それ以外の社会システムか」「営利活動か、公益性か」といった二項対立の構造もよく目にするようになりました。
今回は、経営理論「エフェクチュエーション」の国内第一人者の吉田満梨准教授との対談ということで、これは軸として「計画性か偶発性か」という二項対立のテーマなのかなとも思います。
樫田光氏(以下、敬称略):僕は現在、デジタル庁という少し特殊な環境で働いていますが、働き方としてスタートアップで働くような突破力と不確実性への耐性、そして大企業で働くような調整力の双方が求められます。そのため正直悩むことも多いのですが、そうしたなかで、吉田さんが研究しているエフェクチュエーションを知って感銘を受けました。僕の思考法や仕事の進め方、キャリア観にとても重なっているように思いました。
樫田:この理論を知ってすぐに、吉田さんの書籍『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』の自分なりの解説記事[1]を書きました。自分の行動原理に重なるところもあり、すっと腹に落ちました。
吉田満梨氏(以下、敬称略):その記事、拝見しました。エフェクチュエーションを普及するうえで、起業家に限らないビジネスの実務者への浸透は大切だと思っているので、樫田さんが反応してくださったのはすごく嬉しかったです。
樫田:エフェクチュエーションは、これまでの経営における定石ともいえる「計画性」に相対して、「偶発性を大事にする」という別の答えを提示しています。経営において、どちらが正しいと言えるのでしょうか。
吉田:エフェクチュエーションは「創造のための思考プロセス」と言われます。既存の選択肢のどれかを選ぶのではなく、新たな選択肢を創造する際の思考法なんですね。これを提唱者であるサラス・サラスバシーは「不確実性の高い状況における意思決定の一般理論」と呼びました。お話をお伺いする限り、樫田さんは既存の選択肢やコーゼーション(目的から逆算的に目的達成の手段を定める意思決定プロセス。エフェクチュエーションの対立的概念)からこぼれ落ちる問題に興味があるようですし、エフェクチュエーションに共鳴するのも分かる気がします。
[1]樫田光「偶然を味方につけて、不確実性の高いプロジェクトを成功させる『5つの原理』 ー エフェクチュエーション」(note、2024年2月25日)