インサイトのための観察-相手への影響を最小化する
最後に、現場でどのような方法で観察を行うかについて簡単に紹介したい。『フィールドワークの技法』(佐藤郁哉)によれば、主に4つにわかれる。
- 距離を置いた観察
- ついでに観察
- 役割を設定
- 目的を伝える
1つ目の「距離を置いた観察」は、観察していることが相手に伝わると悪影響を与える場合に有効だ。観察対象のユーザーから「今観察をしている」とわからないように記録を行う。
2つ目の「ついでに観察」は、たとえば普段接客の仕事をしている人が、接客中に気づいたことをその都度メモに記録する形になる。
3つ目の「役割を設定」は、あまりないケースであるといえるが「今日、私は記録係として参加しています」といった形で観察対象に自らの行為について伝える。会議のように、役割設定そのものが自然な状況では有効となる。
4つ目の「目的を伝える」は、「〇〇に関して知りたいので、今日は現場の状態を記録しています」と最終的な目的を相手に伝えたうえで記録を行う。
すべてに共通して重要なことは、観察対象者の行動へ影響を与えないものを選ぶことだ。たとえば、オフィスで働く人の生産性を高めるヒントを知るために、会社へ訪問したとする。そこで「生産性が高まる要因を知るために観察している」と現場の人に伝えるとどうなるだろうか。
もしかしたら「生産性が高い人として見られたい」と無意識に考え、いつもと違う行動をとる人が出てくるかもしれない。もしくは、彼らが「こうすると生産性が高まる」と思っていることを集中的にやってしまうことも考えられる。これでは日常的な行動を観察することができなくなってしまう。観察を行う際には、常に相手の行動に与える影響を最小限にするよう注意したい。
本稿内の出典・参考文献は以下にまとめます。
- Koskinen, Ilpo, et al. Design research through practice: From the lab, field, and showroom. Access Online via Elsevier, 2011.
- Sanders, Liz. "ON MODELING An evolving map of design practice and design research." interactions 15.6 (2008): 13-17.
- 佐藤郁哉(2002)『フィールドワークの技法―問いを育てる、仮説をきたえる』新曜社
- 杉山尚子(2005)『行動分析学入門 ―ヒトの行動の思いがけない理由』集英社
- スタンフォード大学d.school『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド』一般社団法人デザイン思考研究所編
- 松波晴人(2011)『ビジネスマンのための「行動観察」入門』講談社