“遠いアラスカの海で跳躍するクジラを思う”―― YAMAPで起業した春山さん

YAMAP(ヤマップ)というモバイルアプリをご存知だろうか。登山やアウトドアのためのツールだ。携帯がつながらない山の中でも、スマートフォンで現在位置を確認することができ、ルートや距離の確認、コミュニティでの情報共有などがおこなえる。このYAMAPをたちあげたのが、株式会社セフリの春山慶彦さん。社名の「セフリ」は福岡と佐賀の県境にある脊振山からとったという。経産省や日本IBMをはじめとするベンチャー支援関連の受賞歴も多く、起業家としても評価の高い春山さん。その素顔は、野心的な起業家であると同時に、自然愛好家であり写真を愛する表現者の顔でもあった。 (記事上写真:春山慶彦)

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[取材・構成] 京部康男 (Biz/Zine編集部)

[タグ] スマートデバイス ベンチャー

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イヌイットのおじいさんにGPSの凄さを学んだ

「今日はせっかく来ていただいたので、こんな物をお見せしたくて持ってきました。」 そう言いながら、春山さんはコンビニのポリ袋から、無造作に白い大きな物をテーブルに置いた。古くなった木の切り株か、切り崩した岩のようにも見える。 「これはマンモスの歯です。アラスカで、永久凍土になっている海岸線を歩いている時に見つけたんです」 その「歯」を触ると表面がボロボロと崩れていく。数万年前の細胞の塊が、土に還っていく。永久凍土からは歯だけでなく、マンモスの牙や骨も出てくるという。 春山さんが、登山・アウトドアのためのアプリ「YAMAP」を立ち上げた背景には、アラスカでの体験が大きいという。

春山氏が見せてくれたマンモスの歯

イヌイットのおじいさんとその息子たちと一緒にアザラシ猟へ行った時、彼らは伝統的な知恵を使っていました。例えば、この鳥が南から来るときは天気が悪くなるから猟に出ない方が良いとか、こんな雲の形の時はいずれ天気が良くなるから猟に出よう、といった昔ながらの知恵です。一方で、最新のガーミンGPS機器を使いこなしていました。おじいさんに「すごい。GPSを使うんですね!」と聞いたら「お前、GPSは凄い道具だぞ」と言われました。「アザラシ猟は、流氷漂う最も危険な海の猟だ。海が荒れ、霧で何も見えない状態になったとしても、GPSがあれば宇宙の視点で自分の位置を確認できる。GPSを使いこなせば無事に家へ帰ることができる。こんな便利な道具、使わない手はないだろう」と。 僕はおじいさんのその姿勢がすごく健全に思えたんです。猟は命がけの営み。であれば、使えるものは何でも使ってちゃんと家へ帰る。先住民の猟というと、原始的なイメージを持つ方も多いかもしれませんが、全然そんなことはありませんでした。最新のGPS機器や精度の高いライフル銃を使って猟をおこなっていました。

春山慶彦 株式会社セフリ代表取締役 
福岡県春日市出身。同志社大学卒業後、アラスカ大学へ。帰国後、株式会社ユーラシア旅行社『風の旅人』出版部に勤める。その後フリーランスとなり、2011年5月にYAMAPを着想。2013年にローンチし、株式会社セフリを設立する。

春山さんがアラスカに行ったのは2005年。以来何度か、GPSのおかげで命びろいしたことがあるという。そうした経験から「GPSは命を守る道具になり得る」という感覚が春山さんにはある。だからこそ、GPSと通信が一緒になったスマートフォンが登場したとき、「凄いことができるのではと直感した」そうだ。「アラスカでのアザラシ猟の経験がなければ、スマートフォンに対して単に“便利な道具”ぐらいの認識しか持てなかったと思います」と言う。ただ、アップルがiPhoneを発表した時「すごいことが起きるなと思いました。ただ、どう活用していいかすぐにはわからなかった(笑)」とも。

iPhoneを買って、九州の久住連山に登りました。電波がつながらない山の中でグーグルマップを開いたら、電波がないので地図は表示されず真っ白になっていました。その真っ白い画面の上に青い点だけピコンピコンと表示されていて…。それを見て、あっと気づいた。自分の位置情報は、宇宙にあるGPS衛星から拾っているので、山の中でもキャッチすることができるんだと。であれば、地図情報を事前にダウンロードしておけば、スマートフォンがガーミンなどの専用GPS機器と同じように使えるのでは…。 そのことに気づいたのが、2011年の5月。当時、山で使える地図アプリケーションがほとんどなかったため、エンジニアの樋口に相談し、YAMAPの開発を始めたのです。

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