富士通は、AIを活用し、自律型無人潜水機(AUV)を用いて、海中の生物や構造物の3次元形状データを取得する技術を開発した。これは、海洋の状態をデジタル空間に再現し、海洋を構成する環境の変化や海洋を活用した施策の効果などのシミュレーションによる予測を可能にする海洋デジタルツインの研究開発の一環だという。
同技術は、AIを活用して画像を鮮明化することで、濁った海中でも対象物を識別し形状を計測できる画像鮮明化AI技術と、波や潮流の中でも自律型無人潜水機からの安定計測を可能にするリアルタイム計測技術から成る。同技術により、カーボンニュートラルや生物多様性の保全に向けた海洋調査に際して、対象となる生物や構造物の状況を可視化し、体積などを推定することが可能になったとしている。
技術の概要は以下のとおり。
海中の被写体の色や輪郭を復元する画像鮮明化AI技術
濁った海中での撮影により色が劣化して輪郭のぼけた画像でも、生物や構造物を高分解能で3次元化するために、海中の被写体に最適化した深層学習を行った画像鮮明化AI技術を開発。同技術は濁り除去と輪郭の復元を実現する2つのAIからなり、被写体本来の色を復元し、ぼけた輪郭を改善した画像を生成した上で3次元化する。これにより、3次元化処理・被写体認識の際のエラーを防止し、物体ごとに形状計測することが可能になったという。
移動中の自律型無人潜水機からリアルタイムに3次元計測ができる海中3次元計測技術
海中でリアルタイムに3次元計測するため、富士通が国際体操連盟と共同開発した体操の判定を支援する「Judging Support System」で培った短周期のレーザー発光と高速走査による高速サンプリング技術を採用。また、3つのレーザー波長の中から、海況によって計測に適した波長を選択できる水中LiDARを導入した。移動している自律型無人潜水機から3次元計測ができるだけでなく、物体の動きを追従する技術を開発することにより、動いている物体の計測も可能になることが期待されるとしている。
同技術の効果を確認するため、富士通は海上技術安全研究所とともに、同研究所が開発しているAUV-ASV連結システムに、LiDARなどを一体化した水中フュージョンセンサーを搭載し、海中データをリアルタイムに自動で取得する実証実験を行った。同実験から海中に設置された配管などやサンゴ礁のセンチメートルオーダーの高解像度3次元形状データを、リアルタイムに取得することに成功したという。
今後、強い潮流や起伏に富んだ海底地形など様々な環境においても、安定的にデータ取得が可能な技術開発を進めるとともに、ブルーカーボンの吸収量の多い海藻から脱炭素への貢献が期待できる洋上風力発電設備の点検に至るまで測定対象を拡大し、ユースケースを蓄積するとのこと。また計測した3次元形状データをもとに、生物学や環境学などの知見を取り入れたシミュレーションを行う海洋デジタルツインの開発を進めるとしている。