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経営変革の「思想」と「実装」

慢性疾患期の企業で人を動かし、戦略を実行するには──『企業変革のジレンマ』の構造的無能化を読み解く

【第1回・前編】ゲスト:株式会社ローランド・ベルガー プリンシパル 野本周作氏

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 2024年6月、埼玉大学 宇田川元一准教授の3冊目の著書『企業変革のジレンマ──「構造的無能化」はなぜ起きるのか』が刊行された。この本の企画段階から宇田川氏と対話をし、最初の読者のひとりとなったのが、ドイツに本社を置く経営戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーのプリンシパルを務める野本周作氏だ。本記事では宇田川氏と野本氏の対談をお届けする。前編では、本書がもつ稀有な特徴と価値が、国内外の事業会社の経営を経営者およびコンサルタントとして経験してきた野本氏の実感とともに語られた。

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1冊目の『他者と働く』を読み「自分の経験が書かれている」と思った

──野本さんと宇田川さんは、いつからお知り合いなのでしょうか。

野本周作氏(以下、敬称略):ちょうど2年ほど前ですね。まだ前職(外食産業のエー・ピーホールディングス)でCOOをやっている頃でしょうか。きっかけは、共通の友人2人からそれぞれに「面白い経営学の先生がいる」と聞き、先生の1冊目の本(『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』NewsPicksパブリッシング刊)を手に取ったことでした。

 読んでみて「今まで自分がいろんな会社でやってきたことが書いてある!」と衝撃を受けたんです。僕のことを全く知らないはずの人が、自分が経験してきた経営のやり方を言語化しているということが嬉しくて、「この先生に会いたい」とその友人たちに懇願したと記憶しています。

 だいぶ省略してお伝えしますが、そこから勉強会をしましょうという話になって、「これを読んできてください」と課題図書として3冊示されました。僕は飲みながらお話するくらいのイメージだったんですけど(笑)。あれは、今回の本を書き始めた頃でしたか?

宇田川元一氏(以下、敬称略):そうです。企画書が通ったくらいのタイミングです。勉強会というか、ちょうど本を書こうとして悩んでいたので「ちょっとご意見を聞かせてもらえれば」という気持ちでした。

野本:それで会議室に何人か集まってディスカッションしたんです。もちろんまだコロナ禍だったので広い会議室で、アクリル板を立てて。それがすごくワクワクする時間で、今回出版された本が当時からとても楽しみになりました。先生と僕は同い年ですが、我々の年代でこんなにエッジの立った経営学者を他に知らなかったこともあり、すごく面白い方と出会わせてもらったなと思って。それ以来、公私ともにずっとお付き合いさせていただいていて、前職でCEOに就任する時や、それだけでなく退任した時にも非常に力になってくださいました。

 ちなみに「おわりに」に出てくる焦りをおぼえている、とある経営者というのは私です(笑)。

──野本さんに限らず、宇田川先生の本や理論に対して「自分がやってきたことをうまく体系化して説明してくれた初めての人だ」といった感想を持つ方は多いようです。宇田川先生は、それをどう捉えていますか。

宇田川:実際に変革に取り組んでいる人が、言葉にはならないけれど、実感がある感覚を言語化できている、というのはとても嬉しいなと思います。

 僕自身も、考えていることや感じていることというのはまだ曖昧性の世界にあって、自分では捉えどころがない。それを何とか捉えたいという思いで書いてきたのが、今回の本であり、その前の2冊の本でした。特に3冊目は今までよりも遥かに複雑性が高い現象だったので、捉えるのが大変で、悩みに悩んで書きました。

野本:それは端で見ていてもよく分かりましたよ。

──どのような点に悩んだのですか。

宇田川:企業変革について書いたものは世の中にたくさんあったのですが、その多くが経営危機に陥った企業の再生について書いたものですよね。僕が書きたいのはそれじゃなかった。今の日本の企業の多くが直面しているのはそこまで明確な経営危機ではなく、穏やかな衰退という、分かりにくいけれど確実に進行していく緩慢なる危機だからです。その状況をなぜ変革できないのか、色々な人にインタビューをしたり壁打ち相手になってもらったりしたのですが、なかなか見えてこなかった。

 そんな苦しさの中、それでもだんだんと「こうじゃないか」ということが見えてきて、理論的な仮説構築をしつつたどり着いたのが「構造的無能化」という概念でした。だから、「捉えどころのない思いが言語化されている」と読者の方が感じてくださるのは、とても嬉しいです。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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