社内外で広がる量子技術の応用と最適化問題への挑戦
寺部:これらのユースケースはどのように発見されたのでしょうか。
菅:当初は、方向性の模索に時間がかかりました。最初の1年ほどはスタートアップ様や大学様からご教示いただく形で手探りを続けていました。提携先とともに、実際の技術に触れ、試行錯誤することで、まずは技術の理解を深めていきました。
そうした中で、量子アニーリングが離散的な最適化問題には、ケースによって、有効な最適化手法であることがわかり、マテリアルズインフォマティクス等の最適化問題に焦点を絞れました。
そこから先は比較的スムーズに進行できていると感じています。外部の成功事例もよくスクリーニングさせていただきつつ、社内でニーズの高い複雑な最適化課題への展開を進めています。また、もちろん、文献やベンダー様からの情報も活用させていただいています。先ほどのAGVの運航計画も、モデルの立て方次第で、ある種の2次形式最適化問題として、離散的に扱えるとわかったことで、応用先として検討できるようになったものです。
寺部:今後の目標や展望についてお聞かせください。
菅:本格的な量子ゲート型コンピュータが産業界に応用されるのは、2028年から2030年頃だと見通していますが、それに向けて体制を整え、3つの柱それぞれでスパイラルアップを図ってゆきたいと考えています。
量子コンピューティングは非常に幅広い分野にまたがるため、「最適化」や「化学」など、各分野の専門性を持つ国内外のパートナーと緊密に連携させていただくことが非常に重要です。現在のステージにおいて特に重要なのは、大学との連携です。先述の東京大学のQIIや慶應大学の量子コンピューティングセンター(KQCC)といった量子技術のハブ、そして豊田中央研究所と連携しながら、深く研究できる人材を社内に強化しています。お蔭様で、今年からはKQCCに研究者を派遣し、量子機械学習の研究を拡大する取り組みも始められました。
寺部:最後に、エコシステム全体への期待を教えてください。
菅:調査を始めた当初、私はすべてのコンピュータが量子コンピュータに置き換わる可能性も秘めているのでは……という期待を持っていましたが、今では量子コンピューティング技術は特定の相性が良いアプリケーションに特化して活用される技術であると理解しています。そして、そうした分野では、量子コンピューティングによる量子加速技術が必要不可欠な存在になるでしょう。
そのため、重要なのは真に必然性のあるユースケースを早期に見つけ、それを迅速にシェアしてゆくことだと思います。これが国内の量子コンピューティング技術全体の底上げにつながると考えていますし、弊社としても、こうした技術を一つでも多く現場で実装し、実際のビジネスに貢献していきたいと考えています。量子コンピュータの本命と言われる、ゲート型量子コンピュータのキラーアプリケーションがいまだ見えない現在、国内から、コンピューティングに携わる多くのエンジニアが「納得感」を感じて、産業応用の現場で実活用するゲート型のユースケースが生まれてくると大変素晴らしいことだと思います。
寺部:本日は貴重なお話をありがとうございました。