コーポレート部門と事業部門の“現在地”
連携の難しさが指摘される、コーポレート部門と事業部門。そもそも両者の関係性は、これまでどのように築かれてきたのか。
モデレーターであるDIGGLE株式会社 CCSOの畠山氏は、2024年5月に経済産業省の製造産業局が発表した「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」という資料の一部を提示した。それによれば、1951年から1960年にかけて通産省産業合理化審議会答申で示された提言により、現場部門への事業部制の導入が進んだものの、コントローラー制は定着しなかったという。その結果、日本企業では事業部門の独立性が高まり、現在は経営企画や経理・財務といったコーポレート部門と事業部門の分断が大きな課題になっているとしている。
では、両者の分断とはどのようなものか。畠山氏の問いかけを受け、最初に答えたのは鷲巣氏だ。
米系消費財メーカーのコーポレートファイナンス部門でキャリアをスタートした鷲巣氏は、その後スタートアップや欧米企業の日本法人・アジア法人のCFO、PEファンドがスポンサーとなっている企業の経営企画などを歴任。2007年からはグロービス経営大学院のファイナンスクラスの講師を担当するなど、一貫してファイナンス業務に携わってきた。
その鷲巣氏によれば、コーポレート部門と事業部門は現在、「互いに疑心暗鬼」の状態にあるという。事業部門は、コーポレート部門に事業推進を阻害されると考え、コーポレート部門は、事業部門の示す計画を信用しないというのが、よくある構図だ。
その背景には、コーポレートガバナンスがいまだ十分に浸透していないという事情があると、鷲巣氏は考えている。投資家への説明責任を明記した伊藤レポートが発表されたのは2014年。それから現在まで、まだ10年しか経っていないためだ。
一方、米系投資銀行で10年以上コーポレートファイナンスに携わった後、スタートアップ企業でのグループ全体のFP&Aや戦略統括などを経て、現在、株式会社Linc’wellのCFOとコーポレート部長を兼務する新貝氏は、現職では「組織が小さい段階から、コーポレート部門と事業部門の連携に努めてきた」と語る。新貝氏によると、同社では、事業部門とコーポレート部門から独立した経営戦略部と、コーポレート部門に属する財務企画・IRの部署が、いわゆるFP&A(財務計画・分析)の機能を担っているのだという。