リクルートは、「生産性向上」に関する求人と転職の動向について発表した。
転職市場における「経営企画」求人の動向:2015年1~6月比10倍に増加
リクルートエージェントにおける求人数推移を見ると、「経営企画」求人は2015年1〜6月期を1として、2024年1〜6月期は10.0倍に増加。一方で、転職者数も同期間で3.0倍に伸びているものの、求人の増加には追い付いていない状況である。
求人には「新規」「技術」「プロジェクト」「戦略」「課題」といったキーワードが多く、新規事業開発や技術革新、戦略的ビジネス展開を通じて企業が付加価値を高めようとしている姿が見て取れる。
外部環境が大きく変わる中、企業は多くの変革を求められている。グリーントランスフォーメーションや人的資本経営、DX、ガバナンス強化といった重要な課題が増え、経営の高度化・複雑化が加速しているという。
こうした中、採用市場では企業独自の戦略を描き、それを実行する「経営企画」人材の重要性を強調する声が多く聞かれた。
「経営企画」人材の採用に向けて
経営の高度化・複雑化が進む中、「経営企画」人材に求められる業務も多様化しており、採用市場では、求人内に記載されているミッションが抽象的で、曖昧なことが多いという新たな問題が生まれている。
たとえば、「事業成長のための課題解決を幅広くお任せします」といった表現で求人募集する企業も多く、要件が曖昧でマッチングがうまくいかないケースも多々発生しているという。企業は目的を明確にし、具体的にどのような課題を解決してもらいたいのかを、言語化して求職者に訴求することが重要である。
また、一般的に企業はどの職種であっても求めるパフォーマンスに見合った報酬を設定する必要があるが、求職者の希望する給与水準が高くなる傾向にある「経営企画」ポジションでは特に、既存の人事制度が足かせとなり、候補者の希望する給与水準を提示できないケースが多発。
既存の人事制度を背景にパフォーマンスに見合った報酬の提示ができていない企業は、人事制度の見直しも併せて検討する必要があるという。
スタートアップを中心に300人未満の企業への転職が増加
「経営企画」求人への転職状況を企業規模別で見ると、従業員数が300人未満の企業への転職者数は2019年1〜6月期と比較して2024年1~6月期は2.0倍に増加。一方、従業員数が300人以上の企業への転職者数は同期間で1.6倍となっており、300人未満の企業への転職者の増加率のほうが上回っていることがわかった。
増加をけん引しているのは「スタートアップ企業」。最近では「スタートアップ企業」に集まる資金が増えており、事業づくりのスピードも以前にも増して速くなっているという。
キーワードは複数のサービスやプロダクトを展開していく「マルチプロダクト戦略」や「コンパウンド戦略」。特に事業づくりのスピードの加速が顕著であるIT系の企業では、新規事業の立ち上げを目的とした「経営企画」求人の募集が旺盛で、集まった資金を生かして新たな付加価値を効果的に生み出せるような人材のニーズが高まっているという。
- マルチプロダクト戦略:一つの企業が複数の製品やサービスを展開することで、リスクを分散し、収益源を多様化する戦略
- コンパウンド戦略:既存の製品やサービスに新しい要素を組み合わせることで、価値を高めたり、新しい市場を開拓したりする戦略
求職者においても、「スタートアップ企業」ならではの経験やキャリアに魅力を感じ、入社を希望する人が増えてきている。給与水準も上昇しており、大手企業と遜色のないレベルで給与提示を行うケースも増えているという。
たとえば49歳のミドル・シニア世代が「スタートアップ企業」の事業開発ポジションに転職する事例などもあり、年齢に関わらずスキルベースでのマッチングを行う企業が多いのも「スタートアップ企業」の特徴だ。
副業市場でも「経営企画」求人が増加
「経営企画」機能強化のために、副業人材の受け入れを行う企業も増えている。地方の中小企業向けに展開しているリクルートの副業マッチングサービス「ふるさと副業」では、「経営企画」求人は2022年1〜6月期を1とすると、2024年1〜6月期は2.9倍に増加している。
昨今、副業を希望する個人が増加しており、転職市場では人材採用に苦戦する地方の中小企業であっても、副業市場では多くの応募に恵まれるケースが増えているという。
中にはコンサルティング業界や監査法人出身といった、通常では採用が難しい人材を副業人材として仲間に招き入れた地方中小企業の事例も生まれている。
特に、中小企業では「経営企画」に関わる業務は社長1人に集中するケースが多く、対応し切れないことも多くある。そうした際に、副業人材の力を借りるというのも有効な選択肢の1つになるという。既存の従業員が副業人材との協働を通じて新たな知見を獲得し、これまでは対応できなかった業務を内製化できるようになったという声も聞かれた。
生産性向上の必要性を感じている中小・中堅企業のうち、未対応は35.9%
リクルートが2024年3月に行った、「中小・中堅企業の事業課題・人材課題に関する調査」によれば、業務プロセス(生産性・品質)の改善・向上について、対応の必要性を感じている事業責任者のうち、35.9%が「対応できていない」と回答した。
生産性向上における1番のボトルネックは「企画・推進」人材の不足
業務プロセス(生産性・品質)の改善・向上について、対応の必要性を感じている中小・中堅企業の事業責任者に、具体的な課題について質問したところ、最も大きな課題として浮かび上がったのは「業務プロセスの改善を企画し、プロジェクトを推進する人材がいない」(49.9%)であった。
業務の生産性向上を推進する「企画・推進」人材の不足が、一番のボトルネックとなっていることがわかる。
調査概要
- 調査方法:リクルートエージェント求人データの分析
- 調査対象:リクルートエージェント求人データ
- 有効回答数:非公開
- 調査実施期間:2024年7月~8月
- 調査機関:リクルート
【関連記事】
・スタートアップへの転職者数、ミドル・シニア層の伸びが顕著 提示年収は上昇傾向──リクルート調査
・グローバル企業の96%が、3年以内に総収益の5%以上を人材・組織変革に投じる──アクセンチュア調査
・M&Aクラウド、人的資本経営で注目されるHRサービス事業を支援「HRサービス M&A推進事務局」開設