「『スマホ化』する自動車」とは
深尾三四郎氏は、自動車業界とブロックチェーン技術の専門家であり、伊藤忠総研のエグゼクティブ・フェローとして、企業と行政に向けたアドバイザリー業務を行っている。また、モビリティ分野のブロックチェーン標準化団体「MOBI」の理事を務め、国際的な技術標準の策定にも携わっている。
元々は金融業界出身で、証券会社やヘッジファンドを経てテクノロジーと自動車業界の変革に関心を持つようになった。特に「『スマホ化』する自動車」という視点を軸に、業界の収益構造の変化を分析している。
深尾氏はスマートフォンと自動車のバリューチェーンにおける収益構造の変化を、「スマイルカーブ」を用いて説明した。スマイルカーブとは、付加価値を縦軸、バリューチェーンの流れを横軸に置いたとき、“川上”と“川下”の価値が高く、“川中”が低くなる状態を示している。

「自動車業界はもはや単なる製造業ではなく、データを活用したサービス業へと変化している」と、深尾氏はスマイルカーブから指摘する。ソフトウェア技術の発展により、従来の自動車産業の価値基準が大きく変わりつつあるというのだ。
スマートフォン市場では、ノキアの衰退とともに、電池や液晶を供給するBYDやLG、CATLが台頭し、AppleのiOSやGoogleのAndroid上でアプリビジネスが拡大した。これにより、ハードウェアではなくソフトウェアが利益を生む時代へと移行した。
自動車業界も同じ道を辿っている。EVの普及にともない、バッテリー企業が利益を拡大。一方で、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)の登場により、車両販売後の課金ビジネスが急速に広がっている。
深尾氏は「今後の自動車メーカーは、単なるハードウェア提供企業ではなく、継続的な収益を生むソフトウェア企業としての役割が求められる」と指摘する。鍵となるのは、バッテリーや半導体といった“川上”の技術を押さえるか、AIとデータを活用した“川下”のサービス領域で優位性を築くかという点である。
この変革をリードするためには、ソフトウェア開発力の強化が不可欠だ。従来の製造業的な発想ではなく、データドリブンなビジネスモデルへと移行することが求められる。