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日本企業発・イノベーションへの挑戦者

顧客に向き合い続け「売れない」から前年比2倍成長へ。キリン発新規事業「premedi」の軌跡

ゲスト:Cowellnex 田中吉隆氏

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 大企業の社内起業家たちにスポットを当て、その事業を表彰する「日本新規事業大賞」。2025年5月開催の第二回では、キリンホールディングス株式会社発の新規事業「premedi(プリメディ)」が大賞を受賞した。今回は同事業責任者の田中吉隆氏にインタビュー。「最初はほぼ売れなかった」という新規事業での苦労とその乗り越え方、今後の意気込みを聞いた。

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薬局の課題をAIで解決するキリン発新規事業

──田中さんは、以前から新規事業関連の有志活動に積極的に関わっていらっしゃった印象があります。これまでのキャリアを簡単に教えていただけますか。

田中吉隆氏(以下、田中):新卒でキリンホールディングスに入社し、キリンビバレッジの営業職からキャリアをスタートしました。小売業者様などに対し、飲料のチラシ掲載や売り場設営の交渉を地道に行っていました。ところが3年ほど経ったころ、突然キリンホールディングス本社への異動を命じられ、経理として予算管理や決算書作成を担当することになったんです。グループ全体の数字を扱うことで視野が広がった実感はあったものの、経理として専門的なキャリアを積んでいくことに、どこか違和感がありました。

 そこで「何か新しいことに挑戦したい」という漠然とした思いから、同期らと社内大学「キリンアカデミア」を立ち上げました。縦割りの組織を飛び越えた学びの場を目指し、最終的には隔週開催で年間3,000人が参加する規模まで成長させることができました。他にも、新規事業の一歩目を踏み出すワークショップ「未来ゼミナール」を他社と合同で開催するなど、有志活動を広げるうちに「自分自身で新規事業に挑戦したい」という思いが強くなり、社内の新規事業制度「キリンビジネスチャレンジ」に応募したという流れです。

──その時に応募した事業が「premedi」ですね。具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。

田中:「premedi」は薬局の在庫課題を解決するAI置き薬サービスです。

 薬局は本来、人々の健康に大きく貢献できる存在のはずですが、現状多くの薬局は医薬品の受け渡しを中心とした業務に追われ、その役割が十分に発揮されていないことも多いです。その原因の一つが、薬剤師の方々が医薬品の在庫管理に追われていること。特に問題なのが、処方頻度は高くないにもかかわらず、急な需要に備えて在庫を抱えなければならない“ロングテール”の医薬品です。医薬品は箱単位での発注が基本のため、在庫管理が複雑化し、廃棄も増えてしまいます。

 そこで「premedi」は、医薬品を1シート・1本単位で販売し、期限が迫った未使用品は購入時と同じ薬価で買い取る“小ロットの置き薬”というビジネスモデルを実現しました。さらに、各薬局の医薬品需要をAIで予測して在庫を最適化することで、薬局の在庫管理のあり方を根底から変えるサービスとなっています。

 「premedi」はキリンホールディングス発の事業ではありますが、現在はキリンホールディングスと協和キリンの共同出資により2024年9月に設立された、健康に関連する研究開発、ベンチャー投資、事業開発を行うCowellnexという会社で運営しています。

偶然の合コンから生まれたアイデアを行動力で事業に昇華

──「premedi」の事業を始めた経緯を教えてください。

田中:きっかけは、本当に偶然参加した合コンでした。そこで同席した薬剤師の方から薬局の業務課題を伺い、「こんなに大きな問題があるのか」と強く好奇心をそそられたんです。それまで薬局とは全く接点がなかったのですが、課題が根深いだけでなく、キリンの事業との親和性も見えたので、「突き詰めれば事業になる」と直感しました。

 キリンといえば酒類・飲料のイメージが強いですが、協和キリンが担う医薬事業も、実はグループ全体の利益の4割を占めるメインポートフォリオです。

 また、会社としては、発酵バイオテクノロジーをコアコンピタンスとしてヘルスサイエンス事業を柱に育て上げる方針を掲げていたので、将来人々の健康を作る場になりえる薬局の課題解決はキリンで行う意義が確かにあると考え、2019年の「キリンビジネスチャレンジ」に応募することにしました。

 Cowellnex株式会社 premedi事業責任者 田中吉隆氏
Cowellnex株式会社 premedi事業責任者 田中吉隆氏

──応募の時点で、事業内容やビジネスモデルは固まっていたのでしょうか。

田中:いえ、当時はまだ「薬局には様々な課題があるらしい」という程度の認識でした。一次、二次と選考が進む中で、課題を特定しながら事業案を具体化していきました。

 まず取り組んだのが、薬剤師の方々へのヒアリングです。姉の同級生といった身近なつてを頼り、「どのような業務をしているのか」「何にやりがいを感じ、何に困っているのか」をひたすら聞き続けるうちに、“ロングテール在庫”という本質的な課題に行き着きました。実際に薬局を訪れた際、処方薬の在庫がなく、薬剤師の方が近隣の薬局まで慌てて取りに行く場面に遭遇し、「この課題を何とかしたい」と強く思ったのを覚えています。

 その解決策として思いついたアイデアの一つが、「premedi」の原型となったのです。

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新規事業に求められる「大企業クオリティ」の功罪

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この記事の著者

山田 奈緒美(ヤマダ ナオミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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