「経営やコーポレート」と「現場」の間にある3つのズレ
パネルディスカッション冒頭、3つのアジェンダが設定された。
1つ目のテーマは「経営と事業部、コーポレートの間に言葉の壁やズレが起きる理由」だ。このテーマを紐解くため、まず多くの組織が抱える「経営と現場の隔たり」という課題に関して議論を開始。九州旅客鉄道(以下、JR九州)の小田氏は、ズレが生じる要因として「知識」「粒度」「規模」の3つを示した。

慶應義塾大学を卒業し、2013年に九州旅客鉄道に入社。財務部に決算業務の担当として着任。その後、支社の経理業務、営業部では販売システム導入や他社協議等に従事。2020年度に財務部に戻り、予算総括として、全社の予算管理、業績見通しの作成をしながら、BPRにも参画。2023年度からは事業統括部で鉄道事業の予算総括として、収支管理や収支計画の策定、収支管理体制の構築等に従事。2025年度より現職である総合企画本部 経営企画部 経営計画でJR九州グループ全体の業績見通しや財務戦略、資本政策、中期計画の策定等を担当。
「まずは『知識のズレ』です。コーポレート部門が『このくらいできるだろう』と考える常識が、事業の最前線で日々奮闘する現場からすると、現実離れしていると感じられることが頻繁にあります」と小田氏は語る。
たとえば、コーポレート部門は計画達成を求めるが、現場は物価の高騰や資材調達の遅延、あるいは大雨などによる災害復旧対応など、極めて現実的な課題に直面している。こうした肌感覚の違いが、会話の前提を食い違わせるのだ。
次が「粒度のズレ」。これは管理単位の違いに起因する。経営層が管理したい、知りたい情報の単位と、現場が実際に管理しているオペレーションの単位がそもそも異なっている。コーポレートが特定の切り口でデータを要求しても、現場はその粒度で情報を管理していないため、正確な回答ができなかったり、見当違いの報告が上がってきたりする。これがコミュニケーション不全の大きな壁になるという。
そして最後が「規模のズレ」。これは、経営と現場の視座の違いから生まれる。事業規模にもよるが経営者は当然、会社全体にインパクトを与える何億円、何千万円という単位の話に関心がある。しかし、事業部門の多くは、日々のオペレーションの中で何十万円、何万円というコストを大切にしながら事業を運営している。この視座の違いが、報告の濃淡に影響を与え、重要な情報が伝わらない一因となる。
小田氏は、これらのズレは役割の違いから生じる必然的なものであり、無理に埋めるべきではないと指摘する。
「重要なのは、この『あるべきズレ』を認識し、その間をつなぐクッション、つまり翻訳者として経営企画が存在することです」(JR九州・小田氏)
本社コストの配賦は「ズレの象徴」だが経営管理の本質でもある
続いて、akippaの小林氏は、大企業とスタートアップ双方の経験から具体例を挙げる。

大学院在学中に公認会計士試験に合格後、監査法人やPEファンドを経て2014年に丸亀製麺を運営するトリドールへ入社。CFOとして海外展開やクロスボーダーM&A、資金調達、IRを主導し、連結売上を780億円から1,560億円へ成長させた。2020年に駐車場マーケットプレイスのakippaへ参画し、事業戦略や人事制度改革を推進。現在は取締役副社長COOとして、プロダクト・営業・マーケティング・HRを統括し、CEOを支えながら事業成長と組織基盤の強化を担っている。
「店舗ビジネスでは、各店舗は好成績でも、本社コストが配賦された途端に赤字になることがあります。このようなズレや壁は、企業規模を問わず『あるある』です」(akippa・小林氏)
現場からは「自分たちは稼いでいるのに、本社はコストばかり使っている」という不信感が生まれるというわけだ。また、会計上の「減損」も、現場の努力と無関係にPLを悪化させるため、「なぜ頑張りが評価されないのか」という不満につながりやすい。
この対立構造は、単なる感情問題ではない。「経営リソースの配分という重要な意思決定に影響を及ぼす」と小林氏は警鐘を鳴らす。本質的に収益を生んでいない事業を見誤らないためにも、このズレを解消し、共通言語で対話できる環境を整えることが経営企画の重要な使命なのだ。