AI時代のリスキリングは「学び直し」ではく、企業変革の一手
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):リスキリング3部作の1冊目『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』(日本能率協会)を出版されてから約3年が経ちました。この期間で、リスキリングという言葉の使われ方や捉えられ方は、どのように変化したと感じていますか。
後藤宗明氏(以下、後藤):この3年間、「リスキリングは学び直しではない」ということを、日本全国で地道に言い続けてきました。書籍でも繰り返し強調していますが、海外で始まったリスキリングは、本来、企業や自治体といった組織が主体となり、従業員が将来の成長事業を担えるように業務の一環として取り組むものです。しかし日本では、残念ながら「就業時間外に、自己啓発として個人が自発的に取り組む学び」という誤ったイメージで浸透してしまった側面があります。
ただ、OpenAI社がChatGPTを一般公開した2022年11月末以降、潮目が大きく変わりました。「今のままでは仕事がなくなるかもしれない」という危機感が世界的に広がり、リスキリングを正しく理解し、企業の新しい戦略として就業時間内に従業員のスキル習得を支援する企業が、この1年で非常に増えたという印象です。
このようにリスキリングを戦略的に捉えて実践し始めた企業と個人の学び直しというレベルに留まるという「二極化」が進んでいます。
栗原:最新刊『AI時代の組織の未来を創るスキル改革 リスキリング 【人材戦略編】』(日本能率協会)では、リスキリングの歴史を3つのフェーズに分けて解説されています。この歴史的変遷が、現在の二極化や誤解の背景にも関係しているのでしょうか。
後藤:そのとおりです。私が「リスキリング1.0」と呼んでいるのは、2000年代から2010年代にかけての「EdTech(エドテク)市場の勃興期」です。当時はCoursera(コーセラ)やUdemy(ユーデミー)といったオンライン学習プラットフォームが次々と登場し、個人が意欲的に学ぶ時代でした。しかし、個人の自助努力に依存しているとも捉えられるこれらのモデルは「修了率が5%程度」と低く、多くのEdTech企業は個人向け(B2C)から法人向け(B2B)へとビジネスモデルを転換させていきました。
次に訪れたのが「リスキリング2.0」であり、2010年代後半からの「スキルテックの登場期」です。AIの進化に伴い、従業員のスキルを可視化し、学習と紐づける「スキルテック」と呼ばれるプラットフォームが登場しました。これにより、企業は戦略的に従業員のスキルギャップを把握し、的を絞った育成が可能になったのです。
そして現在、私たちは「リスキリング3.0」、すなわち「スキルベース組織への変革期」に突入しています。後ほど詳しく解説しますが、これは単にスキルを学ぶだけでなく、採用・育成・配置・評価・報酬といった人事システム全体を「スキル」を起点として再構築する動きです。AIを最大限活用し、組織と個人の持続的成長を目指すこのフェーズに、欧米の先進企業は既に取り組んでいます。
世界の潮流はすでに「リスキリング3.0」フェーズに移行しており、このギャップを埋めなければ、日本の産業競争力はますます低下してしまうという強い危機感を持っています。