過去最速レベルで拡大する生成AI市場にインパクト
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):まずは現在の業務やご経歴についてご紹介いただけますか。
溝畑彰洋氏(以下、溝畑):私は日本IBMでシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後営業やシステムコンサルタントを経て、2012年にシグマクシスに参画しました。デジタル/AIチームを立ち上げ、2021年からは先端技術応用研究所の初代所長を務め、現在はAIエージェントなどの技術をビジネスにどう活用するのか、お客様企業のご支援や社会への発信活動に取り組んでいます。
先端技術は理解が難しく、誰の言葉を信じていいのか判断しづらい分野です。そこで私たちは「ラボをラボする」、すなわち各社の発表や動向を横断的に整理し、共通点や相違点を明らかにして伝える役割を担っています。さらに、情報収集や分析にとどまらず、量子コンピューターを実際に操作するなど技術を体感的に検証し、その知見をクライアントの皆様へとお伝えしています。

栗原:シグマクシスとして上梓された『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』(日経BP・刊)でも触れられていますが、AIが特に影響を及ぼす産業やタスクにはどのようなものがありますか。
溝畑:生成AI市場のCAGR(年平均成長率)は48%と推計されており、スマートフォン普及期の25%、機械学習ブーム期の38%を大きく上回ります。市場規模も巨大で、社会に計り知れないインパクトを与える技術です。
国内外のレポートを横断的に見ると、特に影響が大きい業界は3つだと言われています。第1に金融・保険分野。証券や保険といった定型業務が中心のため、変化の波を直接受けやすい。第2に流通やソフトウェア分野で、コールセンター業務やシステム開発を含め大きな変革が見込まれます。第3に教育分野。学習支援や教育サービスへのAIエージェントの浸透がさらに進むと予測されています。

総じて言えば、書類やデータを多く扱う産業や業務ほどAIの影響が大きいです。特に、販売、マーケティング、カスタマーサービスといった領域や、IT、財務、法務などのコーポレート部門で導入が急速に進んでいます。
複数のAIが連携する「AIエージェント」が起こす革命
栗原:『AIエージェント革命 「知能」を雇う時代へ』では、その名のとおりAIエージェントを「革命」と位置づけています。改めて、AIエージェントとは何か、ご説明いただけますか。
溝畑:従来の生成AIは単一のモデルがすべてを処理していましたが、AIエージェントは異なる仕組みを採ります。たとえば「過去3年分の売上データを分析してほしい」と依頼すれば、まずは「オーケストレーター」となるAIエージェントが計画を立て、複数のサブタスクに分解。それを専門AIに割り振り、データ収集、集計、グラフ作成、インサイト抽出を、それぞれの専門AIエージェントが担います。それぞれから得られた結果をオーケストレーターが再度を統合してユーザーに提示すると言った仕組みです。

栗原:なぜAIエージェントは高いパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。
溝畑:人間の脳と同じく、分業の構造を持つからです。脳は小脳や大脳といった領域ごとに異なる機能を担い、特定の処理では極めて高い性能を発揮しますが、柔軟性は限られています。それを司令塔となる領域が束ねることで、全体として高度なパフォーマンスが生まれているのです。
組織でも同様に、リーダーが方針を示し、法務や経理といった機能部門が役割を分担することで高いパフォーマンスが生まれます。AIエージェントも同じ構造を持ち、指示役と専門処理役を分けることで精度を飛躍的に高められるのです。