「社会課題ビジネス」と「一般的な新規事業」の決定的な違い
──一般的な新規事業と比較すると社会課題ビジネスにはどのような特徴があるのでしょうか。
岩泉:社会課題に関するビジネスの特異点として「課題を構造的に捉えてビジネスモデルを構築しなければならない」という点があります。たとえば、飢餓の解消を目指すからといって、飢餓で苦しむ人々から直接対価を得て食料を提供するわけにはいきません。複雑な問題を構造的に捉えて、ビジネスモデルや持続可能な仕組みづくりなど、より俯瞰的に事業を構想する必要があります。
つまり、社会課題ビジネスは、社会的なインパクトは大きい反面、収益を得るまでには多くの時間や手間が求められます。従来、大企業が社会課題ビジネスにそれほど積極的でなかった背景には、こうした「足の長さ」があったと思います。
中川:社会課題ビジネスは、一般的な新規事業とは「時間軸」と「空間軸」で大きく異なるということですね。だからこそ、企業側としては、単一の事業をつくるというよりも、新たな産業のエコシステムを形成するといったイメージで取り組むべきだと思います。

──昨今、社内提案制度など新規事業創出の仕組みを設ける企業が増えています。こうした手法による社会課題ビジネスの創出はあり得るのでしょうか。
岩泉:先ほども述べた通り、社会課題に関する新規事業は極めて規模が大きいため、MVP開発のような「小さく始めて大きく育てる」といったアプローチはあまり馴染みません。
その違いが如実に表れるのが、社内への説得の場面です。社会課題ビジネスは理念や目的に共感は得やすい一方、詳細なビジネスモデルや収益性を示さなければ、「絵空事」「慈善事業」などと見なされて、一蹴される恐れがあります。そのため、着手の段階から全体像を描き、事業として成立することをしっかり示す必要があります。この点は、一般的な新規事業の作り方と大きく異なる点です。
中川:また、不確実性が高いのも社会課題ビジネスの特徴です。事業規模が大きいほど高額の投資が必要ですし、外部環境の影響も受けやすくなります。社会課題の性質上、世の中の動きに左右されることも少なくありません。そのため、たった一つの新規事業にリソースを注ぎ込むのではなく、複数のアイデアのポートフォリオを組み、外部環境の動向を考慮しながらリソースの配分や実行の時期を見極めていくのが重要だと思います。
──やはり社会課題ビジネスには長期的な取り組みが求められるわけですね。一方で、新規事業には経営者の任期や定期異動などの時間的な制約もありがちです。こうした制約のなかで、取り組みを長期的に継続するポイントはありますか。
中川:私たちは様々な企業の支援に携わってきましたが、時間的制約は直面しがちな問題の一つです。社内の体制変更とともに取り組みが頓挫したり、縮小したりする可能性はたしかにあります。
そうした事態を避けるためにも、私は定期的に取り組みの成果を内外にアピールするのが重要だと思っています。収益を得るまでには至らなくても、他社との提携や実証実験の実施、ロビイング活動など、定期的に進捗を示すことで、取り組みの継続性を担保できるのではないでしょうか。
岩泉:「既存事業へのポジティブな影響」をアピールするのもポイントです。この取り組みが継続することで既存事業にも好ましい影響が及ぶと示せれば、継続性も高まります。逆にいえば、社会課題ビジネスを立ち上げる際には「既存事業との関連性」をある程度確保しておくのが、継続性を担保するうえではよいと思います。
