【図解】AIに任せるタスクの棲み分け
栗原:とはいえ、現状は生成AIには担えない領域も存在しますよね。どのような仕事を生成AIに任せれば良いのでしょうか。
大野:AIに任せるタスクの棲み分けについては、私は「大量/少量」「デジタル/フィジカル」の2つの軸による四象限で評価しています。結論から言えば「大量かつデジタル」なものが“筋の良いタスク”であり、「少量かつフィジカル」なものが“筋の悪いタスク”です。

「大量/少量」はタスクの発生頻度を指します。AIに任せることの意義は、そのスケーラビリティにあります。AIであれば365日24時間、並列に働くことができます。ゆえに、スケーラビリティによる恩恵を受けやすいタスクであるほど、インパクトが大きいということです。一方で、スケーラビリティによる恩恵を受けづらいタスクも存在します。たとえば、中期経営計画の策定など、数年に一度程度しか発生しないタスクを仮にAIに任せても生産性にはそれほど大きな影響はありません。
栗原:非常にわかりやすいです。
大野:そして、より重要なのが「デジタル/フィジカル」の軸です。これについては、作業やデータがデジタルで完結しているほど、AIにとって解きやすいと考えています。たとえば、この記事のように、インタビュー音源をもとに文字起こしをして記事を作成するタスクは、デジタルで完結しやすく生成AIで代替しやすいものです。一方で、たとえば工場でなにか物理的なものを加工したり、物を運んだり、といったタスクはフィジカル空間への働きかけが必要であるため、AIに任せるには難しすぎることも多いです。
栗原:仕事の分類で大まかに捉えると、ホワイトカラーの業務への適用は筋が良く、ブルーカラーの業務には筋が悪いということですか。
大野:大まかにはそうですね。ただ、ホワイトカラー的な仕事であれば必ずしも解けるというわけではなく、先ほどお伝えした「デジタル/フィジカル」についての補足になりますが、タスクの遂行に必要な「知識」がデジタル化されていることも重要です。
たとえば、AIにビジネスメールの文面を作成させたときに、しっくりこない文章が出力されるという経験をしたことがあるかと思います。ビジネスメールの作成に、フィジカルな要素はほとんどないはずです。それにも関わらず、なぜしっくりこない文章が出力されるのか。それはAIがそのメールを作成するのに必要な「背景知識」を知らないからです。

栗原:詳しく聞かせてください。
大野:文章の作成に関わらず、世の中の多くのタスクには背景知識が求められます。たとえば、人でも、同業種の企業に転職したにも関わらず、仕事の進め方や根回しの方法が異なるために、なかなかすぐにパフォーマンスを発揮できず苦労しているというケースを耳にしたことがあるかもしれません。
こうした現象は組織文化や組織構造といった背景知識を学習していないために起こっていると言えます。AIも同様であり、あるタスクの実行に必要な情報を参照可能な形で持っていなければ、質の高いパフォーマンスを出すことは難しいのです。