AI活用の鍵は「好奇心」と「質問力」
では、リーダーや従業員は、AI時代にどのようなマインドセットを持つべきか。ここで木嵜氏が、自身がNewsPicksでユヴァル・ノア・ハラリ氏と宇多田ヒカル氏の対談企画を実現した際、企画書作成や英語のやり取りにChatGPTを活用した実体験を披露した。会場の専門家層も巻き込み、議論は白熱。AI活用への「好奇心」の重要性が説かれた。
NewsPicksのレギュラー番組統括。早稲田大学卒業後、音楽業界で営業、マーケティングPRを担当。2008年渡米後、テレビ東京NY支局のディレクターとして、イーロン・マスク氏単独取材や米経済を取材。Forbes Japan記事を共同執筆し、在米10年を経て帰国。 Woman AI Initiative Japan 有識者アドバイザー、ACCクリエイティブ・イノベーション審査委員長、EVIDENCE AWARD審査員。
上野山氏が「それは木嵜さんに『企画したい』という強い意志があったからこそ、AIが拡張器として機能した」と評すると、長﨑氏は成功の鍵は「好奇心」だと続けた。
「好奇心は教えられません。日本でAIが使われない理由として『使い方がわからない』『使う局面がわからない』という声を聞きますが、鍵は好奇心と『聞く力』です。AIに対して適切な聞き方(質問)をすれば、適切なアウトプットが返ってくる。これは訓練で誰でもうまくなります」(OpenAI Japan 長﨑氏)
長﨑氏は、米アリゾナ州立大学が全学生・全教職員にChatGPTを導入した事例を紹介。学生がAIネイティブとして社会に出ることの重要性を説き、日本の教育もAI時代に合わせて変革する必要があると訴えた。
日本独自の社会実装のヒントは“間を整えるAI”
日本のAI社会実装が目指すべきユニークな方向性について議論が及んだ。社会課題先進国である日本だからこそ示せる道があるのではないか。
上野山氏は、日本市場でAIアプリケーションを展開する中で見えてきた特異点を挙げる。
「日本では『人の仕事を奪うAI』はあまり広がらず、『人と人との間に入って、関係を整えるAI』が非常に広がっています。たとえば、コンタクトセンターでクレームを吸収してオペレーターを助けたり、会議のメモを取って話が合わなかった上司同士をつないだりする。この『間を整える』という感覚は、他の言語にはない『人間(じんかん)』という言葉に象徴される、日本独自の無意識かもしれません」(PKSHA Technology 上野山氏)
長﨑氏も、人手不足などの社会課題をAIで解決する日本のモデルは世界に発信できると応じる。「日本の仕事は緻密でやりきる力がある。そのフレームワークは必ず世界が追随するはずです」と期待を寄せた。
最後に上野山氏は、AI活用の未来について鋭い問いを投げかけてセッションを締めた。
「AIは効率化に使えてしまう。しかし、人を切り、効率化を突き詰めた先に一体何があるのか、という議論が今グローバルで起きています。私が思うのは、『効率化のためのAI』、いわゆるハイパーオートメーション(業務プロセスの徹底的な自動化)の世界だけを目指すのは違うのではないか、ということです。日本が抱える『人と人とのコミュニケーション不全』という課題を、AIが『間を整える』ことで解消していく。そういう思想を持ったAIアプリケーションを提示できる可能性が、日本にはあるのではないでしょうか」(上野山氏)
AIを単なる効率化のツールとして導入するのか、それとも組織や社会の「関係性」を再構築する触媒として活用するのか。長﨑氏の「まず最先端AIに触れて使うこと」という行動喚起と、上野山氏の「効率化の先にある価値」という問いかけは、自社のAI戦略を見直す全てのリーダーにとって、重い宿題となったはずだ。

