シリコンバレーのVCが注目するマテリアル産業の“メガトレンド”
ペガサス・テック・ベンチャーズは、現在42のファンドを運用し、シリコンバレーを中心に世界中の有望なスタートアップへ投資を行っている。同社の創業者兼CEOであるアニス・ウッザマン氏(以下、ウッザマン氏)は冒頭、デジタル技術だけでなく「モノづくり」の領域でも、シリコンバレーが世界のイノベーションを牽引する中心地となっている現状を指摘した。
かつて素材開発と言えば、大手化学メーカーや鉄鋼メーカーの巨大な研究所で行われる、長期間にわたる地道な研究開発が主役であった。しかし現在、脱炭素社会への急激なシフトやAI技術の進化を背景に、スタートアップが破壊的な技術で市場参入し、巨額の資金調達を成功させる事例が相次いでいる。
ウッザマン氏は、大企業が自前主義にこだわれば、こうした世界のスピード感から取り残されるリスクがあるとし、外部の技術を取り込む「共創」こそが成長の鍵であると強調した。では、具体的にどのような領域に資金と人材が集まっているのか。ウッザマン氏は、現在進行形で起きているマテリアル領域のメガトレンドとして、以下の6つを挙げた。
- カーボンアップサイクル
- 最先端のバイオ素材・サステナブル素材
- AIと自動化で素材開発を高速化
- 脱炭素化・クリーンな工業プロセス
- カーボンキャプチャ・カーボンの利用
- 次世代バッテリー材料
これらは単なる革新的な技術のリストではなく、今後のビジネスにおいて“勝者”となるための競争軸となるものだ。ここからウッザマン氏は、各トレンドの概要と特徴的なスタートアップを紹介した。
トレンド1:廃棄物を「高付加価値製品」に変える。「カーボンアップサイクル」
最初にウッザマン氏が詳説したのは「カーボンアップサイクル」だ。これは、リサイクル(再資源化)の概念を一歩進めたもので、CO2を低付加価値の材料にするのではなく、分子レベルで化学変換を行い、元の製品と同等かそれ以上の価値を持つ製品に生まれ変わらせるアプローチである。リサイクルではCO2排出の削減はできても化石由来の原料への依存から脱却できないが、アップサイクルでは原料の本質的な転換と産業の脱炭素化を進められるという特徴がある。
象徴的な事例として紹介されたのが、米国カリフォルニア州のスタートアップTwelveだ。同社は「空気を燃料に変える」というビジョンを掲げ、CO2、水、そして再生可能エネルギーのみを用いて、航空燃料の「E-Jet SAF」や化学品「E-Naphtha」などの化学製品を開発した。既存の化石燃料由来の製品とまったく同じ品質を持ちながら、ライフサイクル全体でのCO2排出量を最大90%削減できる技術は、脱炭素化が困難とされる航空業界などから注目されており、既に8億ドル以上の資金調達に成功している。
また、フランスのDioxycleは、電気分解技術を用いて、排出されたCO2をエチレンに変換するプロセスを実用化しようとしている。エチレンはプラスチックや繊維、建材などあらゆる工業製品の基礎となる化学物質であり、世界で最も生産量の多い有機化合物の一つだ。同社は、化石燃料ではなく再生可能エネルギーを用いてCO2からエチレンを生成することで、世界のCO2排出量の1〜2%を削減できるとしている。これは化学産業を大きく変えうる技術転換であり、廃棄物が「宝の山」に変わる経済モデルの到来を示唆しているとウッザマン氏は語った。
