「データタレント」育成が組織の閉塞感を打破する
「なぜ御社の社員は、そんなに自発的に学ぶのですか? どうやったらそういう文化が育つのですか?」
鵜飼氏は、顧客から頻繁に受けるこの問いへの回答として、新サービス「BrainPad Data Talent Experience Service」を2026年1月より提供すると発表した。これは、採用、テーマ探索、育成、継承、文化醸成のサイクルにおいて、同社のノウハウを顧客企業に提供するものだ。
ここで鍵となるのが「データタレント」という概念だ。鵜飼氏はこれを、「一部の専門人材に限らず、ビジネスの現場でデータやAIを活用し価値を生み出す全ての人材」と定義した。
新サービスでは、「点」の研修ではなく「体験価値」を提供する。たとえば、採用活動におけるインターンの設計支援や、モチベーション維持のためのコミュニティ形成、イベント企画などだ。鵜飼氏は「トップダウンで導入を命じるだけでは文化は生まれない」と強調する。「やってみたい」という個人の想いが、組織のあちこちで芽吹く環境(文化)を作ることこそが、AI推進の土台となるのだ。
AIのスピードを“殺す”「意思決定」のボトルネック
議論は、AI導入の障壁における「経営の責任」へと及んだ。関口氏が改めて「95%が成果を出せていない」要因を問うと、辻氏は現場視点で「意思決定プロセス」の欠陥を指摘した。
「AIエージェントを使えば、開発速度は劇的に向上します。しかし、実装の承認が『1ヵ月後の会議』まで待たされるようであれば、AIによるスピードアップの価値は消失してしまいます」(BrainPad AAA・辻陽行氏)
辻氏の実感のこもった言葉は、技術導入だけでは変えられない日本企業の構造的な遅さを浮き彫りにした。「意思決定のプロセスも含めて変えていかないと、AIエージェントの真価は享受できない」という指摘は、経営層への重い提言となった。
最後に、今後の展望として「フィジカルAI」と現場の課題について議論が交わされた。辻氏は、日本の現場では「ロボットで全てを自動化したい」という要望よりも、「ベテランが引退する前に、その技能や暗黙知をどう継承するか」という切実なニーズが高いと分析する。
これを受けて関口氏は、人手不足の中で外国人労働者の活用が進む現状にも触れ、「言語が通じない相手にいかに匠の技を伝えていくかという点でも、生成AIや『COROKO』のような可視化技術は重要になる」と応じた。
2026年に向けて、AIは単なるデジタルツールを超え、現場の技能継承や組織文化の変革を担う存在へと進化していく。物理空間でのAI活用と、それを使いこなす「データタレント」の育成。この両輪を回すことが、日本企業が信頼性と競争力を取り戻すための道筋となるだろう。
