あえて“お祭り”にしない。全社を巻き込む意識変革
プログラムを単発のイベントで終わらせず、全社的なムーブメントとして推進するには、社内の「冷めた層」や「ブロックする層」の意識をどう変えるかが問われる。
森久氏は、自身を「低温体質なタイプ」と称し、一部の熱狂的な社員や変わり者だけが盛り上がっている“お祭り”のような状態をあえて抑制しているという。周囲が冷めた目で見ていると、いざ事業部と連携しようとしたときに「勝手にやっているのだから自分たちは関係ない」と協力が得られず、全員が不幸になるからだ。そこで、言語化しづらい「はしゃぎ方のレベル」を慎重にコントロールしつつ、起案者が新規事業立ち上げの過程で「もがいて苦しんでいる姿」を意図的に発信している。
さらに、自身の部門のPL(損益)責任を抱えつつも、部下の挑戦に対して理解と支援をしている、起案者の上司にも光を当てる。リコーでは「挑戦を支援した上司を、役員自らがロールモデルとして表彰する」という制度を導入したのだ。
また、マネジメント層向けに「トップレポート」を定期的に発信してリテラシーを向上させるとともに、「TRIBUS沼ラジオ」というPodcast番組や社内サイネージを使い分け、多様なチャネルで全社への啓蒙活動を推進している。
ボッシュもまた、「FUJI HINODE」という社内イノベーション人材開発の枠組みを通じ、マインドセット変革の推進を図っている。既存事業に長く携わり、既存事業に注力してしまっている社員に対し、「イノベーションとは何か」という根源的な部分から教育するプログラムだ。
2025年は特に良質なアイデア導出とトレーニングにフォーカスし、外部コンサルの実践コンテンツを取り入れながら、起案者をメンタリングする伴走環境の自前化を進めている。いきなり全員に強要するのではなく、まずは手挙げ制の希望者に対して研修を実施し、少しずつイノベーションに共感する人材の裾野を広げていくという、地に足の着いた推進体制を築いている。
新規事業に正解はない。各社の「大実験」を共有しよう
セッションの最後に、ボッシュの北村氏は「外資系企業であっても、抱える悩みは各社共通している部分が多い。お互いの悩みを共有し、ディスカッションしていきたい」と語った。リコーの森久氏も、「新規事業に『こうすればうまくいく』というベストプラクティスはなく、各社がある意味『新規事業という大実験』をしているようなものだ。他社で使えるアイデアがあれば、ぜひ真似して適用してほしい」と呼びかけた。
美しい制度設計(ハード)を作るだけでなく、それを社内で機能させるための泥臭い運用・推進(ソフト)の両輪が噛み合ってこそ、大企業発の共創プログラムは初めて動き出す。リコーとボッシュが実践する試行錯誤のプロセスは、新規事業に取り組む多くの企業にとって、貴重な道標となるはずだ。
