人とAIの「共振」で現場の改善マインドを加速する
続いて、生産DX統括部長の井和丸宏氏が、工場における具体的なAI・デジタル活用事例を語った。興味深いのは、AI活用を一部の専門家だけでなく、現場の「草の根活動」として広げている点だ。
その象徴が、キャビネット工場の現場担当者である後藤氏が自発的に始めた「後藤学校」という勉強会だ。RPA(業務自動化)などを自ら使いこなし、業務を改善してきた後藤氏の呼びかけに、キャビネット工場の従業員の約2割にあたる80名以上が自発的に参加した。

「上司に言われて来るのではなく、自分でやりたいと思う人が集まったことに意味があります」と井和丸氏は語る。現場が自ら業務を構造化し、質の高いデータが生み出される。それをAIが活用し、さらに現場へアウトプットを返す。この「共振モデル」こそが、製造現場におけるAXの本質なのだ。
「共創」が生み出す新たな付加価値と生産性
井和丸氏は、エンジニアリングチェーンにおけるAI活用として「ジェネレーティブデザイン(AIによる設計支援)」の事例も紹介した。椅子の脚など、意匠に影響しない内部構造の設計をAIに任せ、デザイナーは外観デザインに集中する。「人とAIが同時に設計し、最後に合体させる。これは家具業界における極めて優れたAIとの共創モデルです」と、その合理性を語った。
一方、営業本部の森田良一氏は、営業生産性を「劇的に向上」させるための戦略を明かした。オフィス3.0時代、営業には家具の知識だけでなく、働き方、ICT、さらにはデータビジネスの知識まで、膨大な領域の習熟が求められている。
同社が導入した営業ナレッジシステム「SAGACITE(サガシテ)」では、AIチャットに「フリーアドレスがうまくいかない顧客へのアドバイスは?」と問えば、蓄積された膨大な知見から最適な提案を一瞬で生成する。森田氏は「教育のリードタイム短縮と、対応案件数の拡大を同時に実現し、売上・利益の拡大を目指す」と、営業におけるAIのインパクトを強調した。
AI時代に求められる「構え、撃て、狙え」の実践
今回の記者発表会を通じて、イトーキが示したのは「AIを経営の中核に据える」という覚悟の強さだ。
多くの日本企業がDXに苦戦する中、同社がAXへと突き進める要因は、湊社長が説く「時間を買う」という価値観の共有と、現場の「後藤学校」に見られるようなボトムアップの変革意欲の融合にある。AIは単なるツールではなく、企業の意思決定と現場の行動を「倍速」にするエンジンなのだ。
新規事業開発やDXを推進、もしくは企業変革をコーポレート部門から伴走支援する読者にとっても、同社の「無限ループ型AI進化モデル」は大きな示唆となるだろう。社内の課題解決がそのまま顧客価値へとつながる構造をいかに作るか。そして、完璧な完成を待たずに「構え、撃て、狙え」の精神でAIを使い倒せるか。老舗メーカーが見せるこの果敢な挑戦は、停滞する日本企業の変革に対する、1つの明確な解を示している。
