リスクを伴う大型戦略投資案件の管理方法
製薬企業の事例:製品開発と経営が、将来の見通しを共有
次は、ある製薬企業の事例です。この企業は、研究開発を利益の源泉と考え、積極的に研究開発に投資をしています。しかし、役員決裁を要する規模の投資であっても、意思決定のプロセスが定まっておらず、勘とやる気に基づく意思決定が行われる状況にありました。
この状況を改善するため、戦略投資の意思決定プロセスの構築に取り組み、想定されているロジック、データやシナリオの可視化が推進されました。当初は、経営陣が提出されたデータを信頼してくれないようなこともありましたが、開発部門における理解・検討が次第にレベルアップし、やがて経営陣の信頼に足る意思決定の材料が提供されるようになりました。
現在では、投資金額が大きい案件は、ポートフォリオとして全体を定期的にフォローアップし、中長期の業績予測と必要な経営リソースの見通しを共有するプロセスが運用されています。
この取り組みのポイントは、経営陣に対して可能な限り、客観的な情報を提供することにありました。製薬企業には、主に、研究・開発・製造・営業・薬事といった部署があります。このような機能別組織は、効率よく運営できる長所がある反面、部分最適に陥りやすい短所があります。部分最適とは、具体的には、戦略投資の意思決定に際して、自部署に都合の良い意見を述べるようになり、他部署が責任を持つ内容については無責任なコメントをする、というようなことです。営業部門が開発部門に相談なく意見を述べたり、または、その逆も起きます。そうなると、経営陣には、信頼に足る情報が届かなくなってしまいます。
このような問題を解決するため、戦略投資の意思決定プロセスの構築にあたっては、事務局が設置され、各部署からの情報を事務局として整理し、社内ではありますが、可能な限り客観的な情報を経営陣に提供することを目的としたのです。