慶應・琴坂教授が語る、AI時代の経営戦略「10の視座」──なぜAI導入のみでは競争優位は生まれないか
早稲田大学ビジネススクール 入山・池上・澁谷ゼミ 共同特別招待授業レポート
早稲田大学ビジネススクール版“白熱教室”
質疑応答セッションでは、入山章栄教授、池上重輔教授、澁谷覚教授、社会人大学院生から多角的な問いが投げかけられた。

ファーストペンギンを目指すべきか? 参入タイミングの極意
受講生:全企業がファーストペンギンになる必要はないと、本日のご講演から感じたのですが、どのタイミングで視座10を見据えて参入すべきでしょうか。
琴坂:視座1〜6の「定石」理解が大前提です。その上で自社の「変化速度」を見極めます。SaaSやECなどAIネイティブ化が不可避な市場ならAIネイティブ化への取り組みを直ちに始めるべきです。一方、インフラや重厚長大産業では安全基準や設備更新サイクルが異なります。産業特性、技術進化速度、自社能力を見極め、取り組みを段階的に進めるべきです。
「建築家」と「庭師」の相克、および日本における非市場戦略
受講生:エコシステム構築における「建築家(ルール設計)」と「庭師(協調的育成)」の切り替え方、および日本での非市場戦略の進め方を教えてください。
琴坂:両立の鍵は「フレーミング」です。戦略家は全体枠組み(建築)を設計しつつ、現場には自発的に動ける空間(庭)を残します。また、日本の制度改革では、制度ごとの政策形成の周期や合意形成のリズムがあります。政治・行政の「文脈とリズム」を熟知し、それに乗っかる形でアプローチすることが重要です。
B to A to C時代における「ブランド価値」と信頼の獲得
澁谷教授:AIが購買エージェントとして介在する際、物語や意味を持つ新しいブランドが検索条件から除外される懸念はありませんか?
琴坂:購買をAIに任せる「B to A to C」時代で重要になるのは、顧客からの「信頼(パーミッション)」です。信頼があれば『このブランドならAIにデータ共有してよい』と許可が出ます。単一の広告発信ではなく、品質・保証・サステナビリティなどの多層的ファクトを機械でも検証可能なデータで保持し、AIからのリクエストへ即座に最適回答を返す構造へのシフトが求められます。
経営者に求められる「パッション」と「高い視座」
アルゴリズム時代において、経営者やミドルマネージャーはどのような選択をすべきか。
キリンホールディングスが「AI役員(CoreMate)」を並べて論点出しを行わせ、ショッピファイ(Shopify)が採用で「なぜAIで代替できないか」を問うように、定量分析や数値管理は高度なAIに代替されていく。
こうした環境で求められるのは、数値の監視者ではない。AIが分析や提案を担うからこそ、「熱量(パッション)を持ってビジョンを語り、自社固有のコンテキスト(背景・文脈)を明確にし、人や組織に伝える触媒」としての役割である。
相反する提案を統合し、人間固有の倫理観や「なぜこの事業を行うのか」という根本的な問いを提示できる高い視座を持った経営者やミドルだけが、変革期を切り拓くことができる。
「猶予はせいぜい2〜3年です」と琴坂氏は警鐘を鳴らす。不確実性が高まる時代において、最も価値ある経営資源は適応能力にほかならない。平時のうちに構造的硬直を取り除き、自律チームに権限を委ね、人間らしいパッションと高い視座で組織を進化させ続ける姿勢が求められている。
■琴坂将広氏の最新共著『選択するミドル:「分離」の時代を生きるための羅針盤』(有斐閣、11月末発売予定)
※『経営戦略の進化〈理論編〉』の続編となる『経営戦略の進化〈実践編〉』は東洋経済新報社より2027年1月刊行予定。
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