経済危機がソニーのM&Aを促す
低迷したソニーをさらに追い込んだのが08年のリーマン・ショックをはじめとする経済危機だった。当時、リーマン・ショックをきっかけとした世界的不況と相まって、ギリシャ・ショック、極端な円高、東日本大震災と、立て続けに日本経済は危機的状況にひんし、同社だけでなく日本企業にとって非常に苦しい環境となった。こうした中、ソニーは家電業界ではかつて考えられなかったようなM&Aや企業提携を次々に行った。
例えば、11年のシャープの液晶テレビ工場への出資、東芝、日立と共同出資でジャパンディスプレイを設立、12年のソニーとパナソニックによる、テレビ・大型ディスプレイ向け次世代有機ELパネルおよびモジュールの共同開発などである。特にソニーとパナソニックはこれまでライバルとして技術を競い合ってきた企業であるにも関わらず、共同開発に踏み切ったことは歴史的な出来事であるとまで言われた(ただし、13年には提携解消)。
分社化により経営転換を図る
リーマン・ショックや東日本大震災を経て市場は落ち着きを取り戻したものの、ソニーはその間もエレクトロニクス事業の赤字に苦しんでいた。11年3月期と13年3月期こそ改善の兆しが見えたが(図表11〉、14年3月期には再び業績が悪化している。14年3月期には、傘下のエムスリーの株式、米国本社ビル、ソニー発祥の地である東京・品川のNSビル本社跡地、ディー・エヌ・エー株式の売却益を含めても最終赤字となっている。また、エレクトロニクス部門は3期連続赤字となった。
ソニーのような多くの事業を持つ複合企業には、「コングロマリット・ディスカウント」と呼ばれる現象があり、個々の事業がいかに強くても、足の引っ張り合いやもたれ合いによって全体の経営効率を押し下げる現象が起きる。
ソニーはかつて家電、音響・映像など、それぞれの事業を関連付けることでシナジー効果を発揮し、大ヒット商品を生み出してきた。そういった経験から事業の切り離しに踏み切れず、不採算事業のスリム化がなかなか進まなかった側面がある。しかし、14年3月期に不採算事業や保有資産の売却を行うなど手元資金を増加させ(図表3)、それを好調な分野へ集中投資するという戦略が見受けられるようになった。そして、15年2月の中期経営方針では、全ての事業を分社化する方針を明らかにし、これまでの規模を追求してきた戦略から利益重視の経営を徹底すると表明した。
■06~15年業績推移(図表3)
■06~15年自己資本比率・現預金・長期借入金の推移