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【出張版】M&A Online

著名弁護士が本音ベースで語る日本のM&Aとその課題

佐藤明夫弁護士インタビュー

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M&Aのプレーヤーをうまく使うには?

――M&Aにおけるプレーヤーについて伺いますが、まず、投資ファンドについてはどのようにお考えですか。

 10年から15年ぐらい前、銀行の不良債権問題がピークを迎えていたころ、プライベート・エクイティ・ファンド(複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を事業会社や金融機関に投資し、同時にその企業の経営に深く関与して「企業価値を高めた後に売却」することで高いIRR「内部収益率」を獲得することを目的とした投資ファンド。以下、PE)が、過剰債務を抱えて苦しんでいる会社のバランスシート(以下、BS)改善に貢献したことは間違いないと思います。
 とりあえず、営業利益は出ているものの、自己資本はペラペラの薄さで、借金も多い。そういう会社のBSを改善するにはどうしたらよいかという課題に対し、彼らの知恵と資本が投入されました。ただ、こういうと怒られそうですが、当時、PEの人たちと話をしていて、PEのプレーヤーの中で本当の意味で事業や経営がわかっている人はほとんどいないと感じていました。古参の従業員と侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をして、地味な製品改良や営業活動をやりながら業績を上げていくなどという作業は、投資銀行やコンサルティングファームの出身者が中心の彼らとして、実は最も苦手なんだろうなと、多少冷やかに見ていました。そもそも彼らは、多くの買収対象企業が行っていたような地味な実業についたことがなく、とても「リアルな経営や事業の厳しさ」を受け止められているようには見えませんでした。それにもかかわらず、当時は、投資先の地味な中堅メーカーの役職員をバカにして、「俺が教えてやる」というぐらいの態度を取る若者も多かった気がします。
 でも最近は、わからないことを素直に認めるPEが増えてきた印象があります。実業を30年も40年もやってきた社長がトップラインを上げられずに艱難(かんなん)辛苦の末、会社を売る決断をしたものを、実業経験の乏しいPEがわかるわけがないのです。
 最近は再生案件が減っていることもあり、PEのターゲットは、IPOにシフトしてきているイメージがありますが、そうだとしても議論が行き着くのはPMIと同じで、バランスシートのディールではなく、本気で業績を上げようと思うのならば、自ら社長になるか、社長を連れてくるかは別にして、いずれにせよ、申し上げたような「本物の社長」を投資先に確保できるのかということが問われているように思えます。自分たちができないから、金融機関や事業会社出身のセミリタイアしたような人を社長に据えたり、コンサル会社と契約させたりして経営させようとすることもありますが、こういうことでは大した成果は出ないように思えます。

――では、弁護士の上手な使い方はいかがでしょうか。

 何を頼みたいのか、何を期待しているのかを明確に示し、事前やプロセス中でも十分な議論をすることです。その前提として、弁護士が行う各種の作業が、どういう意味を持つものかを理解することも必要だと思います。
 例えば、DDにしても、何が何でも「フルDD」ではないし、コストと時間の無駄になる可能性が高いです。
 一例を挙げます。不動産会社が同業の会社のM&Aをするに当たりDDを依頼したとします。「ここで一稼ぎ」と考える弁護士は、「どんなリスクが隠れているかわからないので徹底的にDDをやりましょう。少しお金は掛かりますけれど」などと提案してくるでしょう。手数を増やす方が、当然、報酬も大きくなるからです。けれど、弁護士を使って膨大なコストをかけて、買収先企業が持つ多数の不動産について、登記簿を取り寄せて調べさせても、費用対効果の意味ではあまり意味はありません。自分が不動産会社であれば登記簿を散々見てきた社員はいくらでもいますし、その業界に長年いる人であれば、弁護士事務所で実際にDDを担当する、登記簿をちゃんと見たこともない1年目、2年目くらいの弁護士より、はるかに、登記簿から透けて見えてくる問題性や疑問点を見抜く力があるのです。ですから、そういうDDは、自分たちでやればよいのです。どうしてもわからない疑問点のみ弁護士に調べてもらい、弁護士はそれを徹底して調査分析する方が、よほど、コストも低くなるし、実効性も高いと思います。
 こういったことは、いくらでもあります。弁護士の商売を邪魔するような話で、同業者の皆さんには申し訳ないのですが……(笑)。
 ただ、他方で、多数のDDの経験を積んだ弁護士でなければ見抜けないようなこともあります。DDを依頼する弁護士とは、十分議論し、こういう、弁護士ならではのプロっぽい仕事を全力でやらせればよいのです。依頼事項と期待を明確にするというのは、こういうことだと思います。

――自分が会社を売る立場になることを想定して取り組んでおくべきことはありますか。

 私はいつも、「ぐしゃぐしゃな会社にしておくな」とアドバイスしています。つまり、売ることを想定しているならば、「売れる会社」にしておかなければならない、ということです。どんな小規模なM&Aでも、今どき、最低限でもDDは必ず行われますから、買収後にリスクが顕在化するような会社に買い手はつきません。
 例えば、持っている技術やサービスによっては上場会社が買い手になる可能性がある。しかし、自社の内部統制があまりにめちゃくちゃであれば、買い手は連結すると内部統制上の問題が発生するので買うことには二の足を踏むでしょう。また不明朗な関連当事者取引があるとか、必要な許認可が取れていない、利益相反がある、株主整理ができていないといった問題もきれいにしておかなければなりません。こうして「きれいな会社」にしておくことが、買い手の幅を広げることにもなります
 買い手が気がつかなければよい、というものではありません。最近、年々、M&A後に、買い手から、「先生、こんな深刻な問題が隠れていました。どうしたらよいでしょうか」という相談が増えています。事後にそういう問題が顕在化すると、買い手は日に日に「だまされた」という思いを強くし、ひいては訴訟や大ごとになっていきます。ぐしゃぐしゃな会社を売り切って、シメシメと思っても、その後会社は買い手の手中にあるのですから、いずれにせよ分かってしまいます。「バレないようにする」よりも「なくしておく」ことが何より大事ということです。

――国内の中小企業では事業承継と相続がらみのM&A案件が増えています。そこで課題になっていることはありますか。

 日本社会の経済的な力を維持するためにも、中小企業の円満な事業承継は重要な課題になっています。しかし一方で、承継がうまく行かず、企業そのものの力を弱めてしまうような事態が頻発しています。
 相続がらみの事業承継で一番の課題は、少数株主の存在です。戦後の日本において、会社を興し発展させる過程で、自分の兄弟や親類に株を分け与えたケースはたくさんあります。出資の払込みまでしてあげて、実態としてはただで株を渡しているケースすら、少なからずあると思います。ところがその兄弟や親類も亡くなり、日ごろのつきあいもない息子や娘たちが親の株を相続する。税理士に相談したところ、「額面50円でも、とんでもない価値があります」と評価されて“その気”になるのです。
 創業者が配当をしつつも実直に内部留保を蓄え続けた結果、確かに、純資産ベースでも株価は巨額になっており、今さら、純資産で買い取ることもできないし、できても、もともとが「50円」ですので、買い取りたくもない。当然、売却を表明した親族との関係は悪化し、ひいては「何でも反対」や「現経営陣は不正をしている」になる。現経営陣が3分の2以上の議決権を持っていればよいのですが、そうでない場合は、増資や定款変更といった特別決議が通らない。株を配った結果、現経営陣がマイノリティである場合すらあり、そうなるともっと深刻です。親族の株も含めて買い取ってくれる先があれば話は解決しそうですが、こじれた親族関係の中では、そういう話をまとめるのは極めて難しい話です。こうした問題を円滑に解決するための仕組み作りは、日本経済という大きなレベルで見ても非常に重要性が高いのではないかと考えています。

本記事は、M&A Onlineに掲載された記事を再編集して掲載しております。

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