顧客が見る価値の変遷—機能、デザイン、ストーリー
――最近、注目されているという「ストーリー」についてお考えになっていることをお聞かせください。
まず、「顧客が見る価値」の変遷をざっと見てみましょう。
30年前は機能、「利便性の時代」でした。家電業界を思い浮かべていただくとわかりやすいと思います。たとえば、3万円の洗濯機には機能が3つ、5万円なら機能が5つ付いている。測ってわかる、見てわかる価値が評価された時代です。
20年前には、「機能にデザインという新しい価値がプラス」されるようになりました。スタイリッシュ、かっこいい、自分のライフスタイルに合っている、といった測りにくい価値ですね。
この10年間では、僕の観察によるともう1つ、「ストーリー性、意味性」という新しい価値が入ってきています。これはもう数字では測れません。ストーリー性を備えて成功している商品やブランドの例としては、ヘッドフォンのビーツ(Beats)、エナジードリンクのレッドブル(Red Bull)、コーヒーチェーンのスターバックス(Starbucks Coffee)などが挙げられるでしょう。
たとえばレッドブルは、機能性としては元気になる成分が入っている。デザイン性としては、アイコンがあってかっこいい象徴的なボトルがある。加えて、徹夜明けのプログラマー、ウォールストリートのトレーダーなどのハードワーカーや、F1などのエクストリームスポーツのアスリートが飲むというストーリーがつけられています。「人間の極限に挑戦すること」をつなげたストーリーをまとった状態でブランディングしているんですね。
機能やデザインは教育機関で学べますが、ストーリーの作り方は技法として確立されていないので、まだ教えてくれるところがありません。これからの5年間で、いろんな技法が出てきて、おもしろくなるでしょう。イノベーションを成功させようとすれば、ストーリーそのもの、またその伝え方をイノベーティブに作っていかなければならなくなるでしょう。