インタビュー 濱口 秀司 連続インタビュー

濱口秀司氏が語る、「認知バイアス」を活用したビジネスデザイン──企画からマーケティング、社内突破まで

monogoto 濱口 秀司氏インタビュー:第5回

 日本初のイントラネット構築やUSBメモリの発明をはじめ、幅広い業種の新規事業開発やイノベーションに携わってきた濱口秀司氏。その起点となる着想・企画からマーケティングまで、一連のプロセスにおいて人間の「認知」を活用し、数々のプロジェクトを成功に導いてきた。濱口氏が活用する「認知」のメカニズムとはどのようなものか、どのようにして認知をビジネスデザインに活用するのか。様々な例を踏まえながら、紹介いただいた内容をお届けする。

[公開日]

[語り手] 濱口 秀司 [聞] 栗原 茂(Biz/Zine編集部) [取材・構成] 伊藤 真美 [写] 長谷川 梓

[タグ] 認知 バイアス ビジネスデザイン 企業戦略

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人間の「認知メカニズム」を知り、ビジネスをデザインする

──濱口さんは以前から「新たなビジネスを立ち上げる際に人間の“認知”を活用する」とおっしゃっています。「認知」とはどのようなもので、またビジネスデザインにどのように活用されているのでしょうか。

monogoto 濱口秀司氏(以下、敬称略):「認知」とは、“人間の世界そのもの全て”だと思います。人間はある対象について、大きさや重さ、ボタンの場所などの情報すべてを理解しているわけではありません。部分的に取得した情報をもとに解釈したものが“認知”となり、その認知には人間側にあった思い込みや誤りも織り込まれていきます。触った瞬間に生まれる体感的な認知もあれば、物語を聞いて想像から生まれる認知もあります。いわば映画「マトリックス」のように、脳で解釈したものが世界を作っているわけですね。この「認知」がなければ、実在するにも関わらず、人にとってその対象は存在しないことになります。

 よって、ビジネスデザインにはサービスや商品を「どう認知してもらうか」という「認知設計」が重要になります。ただし、近年は認知をコントロールすることがとても難しくなってきています。たとえば、世の中を流通する情報量が爆発的に増えていることで、相対的にユーザーとの接触時間、届けられる情報量も極端に減少しています。つまり、わずかな情報量でどう狙ったように認知させるか、工夫する必要があります。

 また、人間の認知は当たり前のように歪み、常に正しく認知されているとは限りません。たとえば、ある人からは「Aさんが会社を辞めたいと言っていた」と聞いて、他の人からは「Aさんが休日に人材紹介会社の人と会っていた」ことを耳にしたとします。すると、2つの情報がカチッと結びついて「やっぱりAさんは会社を辞めるんだ」と思い込んでしまうわけですね。

 本当はもっと多くの情報を集めて判断すべきと分かっていても、別々の情報源から少し違った情報が届くと、頭の中で勝手に結合されて「やっぱり!」と思ってしまう。そして単に知らされた情報よりも、妙に信じ込んでしまうのです。そう考えると、繰り返すことで印象づけることが原則だったコマーシャルも、メディアごとに少しメッセージを変えたほうが消費者の印象を強めることができる。このように認知の仕組みを利用して、効果的にメッセージを届ける方法を考えていくわけです。

 私がそのひとつとして気づいたのが、「だんご3兄弟の“末っ子”は大きい」という法則です(笑)。高速道路を走っている時、前を走る車を追い越そうとしたらその車が加速して「抜けなかった」、これが最初のだんご。2個目のだんごは、再度、追い越そうとしたらまた加速して「抜けなかった」ときに発生します。すると人間の頭の中には、「わざとやっているのではないか」という予測の「串」ができるんです。これがまさに「予想直線」です。そして3回目に、その車が加速して抜けないという事象が偶発的に発生したとしても、予想直線と一致した途端に「わざとだろ!」が確定して、過剰に反応してしまうわけですね。これはプラスにもマイナスにも働きます。

 この「だんご3兄弟の“末っ子”は大きい」法則を活用したのが、「マイナスイオンドライヤー」です。最初はイオンを発生させるために水を入れるタンクがついていたんです。ここで多くの人は「今までのドライヤーと違う」と認知しながらも、「水のタンクが邪魔だな」と思ったはず。そして次にタンクを小さくし、消費者に予想直線が生まれたところで最後にタンクをなくしたんです。するとユーザーから「待っていました!」と反響があり、大ヒット商品になりました。

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