テクニウムの進化がもたらす近未来①(本書より)
ムーアの法則の直接的作用は、全てのテクノロジーに対してではなく、あくまで縮小化可能な領域にのみ働くことがわかった。指数関数的成長をもたらすものが縮小の効果というのは、エクストロピーの増大、非物質化・脱身体化という進化の方向性にも合致している。縮小可能領域こそが、いまテクノロジーの自己増殖が起きている場所、進化の行われている場所に他ならない。
こうしたテクニウムの進化が進んだとき、具体的にいかなる未来が訪れるのか。本書記載に基づき6つの予想を紹介したい。
1.多様性の爆発的増加が「選択支援テクノロジー」を発達させる
指数関数的成長により多様性は爆発的に増していく。本書は例えば米国における年間特許出願件数の推移を紹介していた。科学論文数も同じく指数関数的に伸びている。
特許出願件数は産業政策にも左右されるが(現に近年はパテント・トロール対策の法制度整備で出願件数減少中)、長期的には本書の指摘する通り、テクノロジーの多様性増加が特許件数にも反映されているようだ。
グラフの近年の伸びは、1990年代に認められたソフトウェア関連特許の分だろう。今後は遺伝子関連特許の増加が、グラフの指数関数的成長を続けさせるかもしれない。
本書は、こうした多様性の増加が選択肢の過剰を生み、「選択支援テクノロジー」を発達させると予想する。私はこれがテクニウムによる進化の次の「必然」であると考えている。
超多様性への解答は選択支援テクノロジーを使うことだ。そうしたより良い道具は、人類が途方に暮れるほどの選択肢の中から選ぶことを助けてくれる。(中略)多様性は多様性を吸うための道具を生み出す(中略)。
2.テクニウムの相互性増加がオープン化を促す
本書によれば、テクニウムは進化に伴い相互性も増していく。テクノロジー同士が接続され、相互に協働することで付加価値を生み、1+1+1が3ではなく5にも10にもなる。
全体が個々の集積の和を超えるということだ。これこそがテクノロジーが育てる、創発する力なのだ。 自分の考え(ツイッター)、読書(StumbleUpon)、財務(Wesabe)、自分のすべて(ウェブ)の共有は一般化しており、テクニウムの基盤になりつつある。
近年起きているオープン化は、本書に基づけば、テクニウムの正しい方向性に沿っているということになる。
3.テクノロジーの偏在化がパラダイムシフトをもたらす
テクノロジーの指数関数的成長により、普及の速度も速まっている。ここで本書は、あるテクノロジーを「誰もが持つ」ようになり、その存在を意識しなくなるとき、大きな変化が起こると予想する。本書が挙げる例がおもしろいので、いくつかを紹介しよう。
1000台の自動車は、移動を可能にし、プライバシーを創造し、冒険を提供する。10億台の自動車は、郊外を形成し、冒険を排除し、土地に根差した考えを消し、駐車問題を引き起こし、交通渋滞を生み出し、建造物は人間的尺度で作られなくなる。
1000台の人間の遺伝子配列決定装置は、個人向け医薬を一気に広める。10億台の遺伝子配列決定装置は、毎時リアルタイムで遺伝子損傷を監視し、化学工業をひっくり返し、病気の定義を変え、家系図を流行らせ、「超清潔」なライフスタイルを打ち出して有機体が汚れて見えるようになる。
他にも本書は、常時稼働カメラ、ディスプレイ、人間型ロボット、果てはテレポート基地について、1000台が10億台になった場合の変化を予想していた。
すでに出現したテクノロジーでも、その量の偏在化は社会に質的変革をもたらすことになる。今後出現するテクノロジーの予想も興味深いが、今あるテクノロジーが偏在化したとき何が起こるか、という視点で未来を想像するのもおもしろそうだ。