アップルがアンジェラ・アーレンツ女史を求めた理由――餅は餅屋、美や洗練にもその道のプロがいる
クリエイティブな仕事に従事する場合、個々が生活の中で美や洗練を意識し、企業活動の中で高いレベルのコンセンサスが生まれれば、より正しい企画発想や意思決定が出来ると書いてきた。最後に、これまでの流れとやや矛盾するかもしれないが、個やチームがどれだけ頑張っても、自前主義では勝てないゲームもあるという点に触れたいと思う。
数年前にアップルが当時バーバリーCEOだったアンジェラ・アーレンツ女史を必要としたように、ITとファッションが融合していくような高度化・複雑化した市場で戦うときに、どうしても自前主義では不十分という状況は今後年々増えていく。料理、音楽、スポーツ、工芸などにそれぞれのプロがいるように、当たり前だが、美や洗練のプロがいる。国内で、あるレベルの美や洗練のコンセンサスを取るのでも大変なことなのに、グローバル市場で自分とは生活様式も文化背景も違う人たちの美や洗練を理解するのは、すっかり社会人になってから頑張ったところでなんとかなる問題ではないと思う。アンジェラ女史のように世界のトップメゾンで文化創出に携わっている人たちは、これまでの人生をかけて美や洗練と付き合ってきている。何十年という経験や情報やネットワークの集積であって、一朝一夕に真似できるものでもないし、ましてやハウツー本で得られる知識でもない。信頼できるパートナーを見つけて、良い形で引き込むのが得策である。