人の感覚は「飛躍的進化」に鈍感である
もともと「技術的特異点」という考え方は、ムーアの法則や収穫逓増の法則のように、技術の要素が指数的に増大することで機械が飛躍的に進化し、ある地点で特異点を迎えるというものだ。
しかし、問題はこの「飛躍的進化」「指数的な成長」というものを、われわれ人間の感覚は的確に捉えることができないということだ。
たとえば、毎年バージョンアップされるスマホは、昔のスーパーコンピュータ以上の性能を持つが、日常の感覚として毎年「少しづつ」進化してきただけのように思える。このような技術の進化と感覚のギャップについて、中西さんは本書でこう述べる。
「我々はチェスや将棋、クイズなどで機械が人間を追い越す現場を目の当たりにしていても、その脅威を日常の中で感じることができない。それは、技術の進歩によりある日突然、生活が一変するような非連続的な世界に暮らしていないからだ。技術が急激に進化していても社会にもたらされる変化は少しずつ、という連続性を保った世界にいるから、毎日の変化に気づかなくなってしまうのだ。」(『シンギュラリティは怖くない』より)