モノのデザインからコトのデザインへのシフトが必要
では、どのようにしたらイノベーションを生み出せるか。そのためには、顧客の現場から「技術ではなく顧客との関係性の創出」に価値を生み出さなければいけない。新しい知的方法へ関心が寄せられており、そこでデザイン思考が求められているのだ。
紺野氏は、生前親交のあったIDEOの故Bill Moggridge氏による「デザインは知識のための言語」だという指摘に本質を感じたと言う。デザインは社内外の知識資産活用のための相互作用的な手段であり、暗黙知の視覚化、知識資産の創造、活性化に有効だとした指摘で、日本を例に挙げると、“清める”という行為は不可視の智慧や文化的知識を伝えるためにデザインが生かされている、とBill氏は述べている。
デザイン思考は、問題解決ではなく問題そのものを発見すること。論理や分析ではなく、人間の感覚や感性といった暗黙知との関わりが強い。こうした状況を読み解くためには、従来のデザイン教育ではなく人間を関係性において観察するインタラクションデザインを考えなければならない。だからこそ、エスノグラフィーなどのフィールドワークが求められてくる。
この100年のデザインの歴史を紐解くと、デザインはそれぞれの時代に大きな影響を与えている。1920年から1960年代までは工業デザインを中心に、カラーリングなどの「プロダクトや形のデザイン」が中心だった。1970年代から1990年代に入ると、情報デザインを中心としたプロダクトだけではない「人とモノや環境との関係性に形を与える方法論」へと移行していった。そして2000年代に入り、「知識や経験をデザインするもの」へと、デザインの考え方は移行していったと紺野氏は語る。
ネスプレッソのコーヒーマシーンはは、いまや高級なコーヒーを楽しむという経験を提供するものと捉えられる。提供しているのはコーヒーそのものではなく、モノを使って経験をいかにして提供するかということにシフトしている。デザインはもはや、モノのデザインから経験やモノに関わらないデザインになってきている。