暗黙知から形式知へのプロセスを作り出す知識創造理論とデザイン思考
現在日本で一般的に行われているデザイン思考のワークショップは、観察、アイデア、プロトタイピング、ストーリーテリングというプロセスではないだろうか。しかし、こうした定型化された表面的なワークフローから果たしてイノベーションが起きるのか、という問いを紺野氏は投げかけた。
一見、ワークショップやストーリーテリングは楽しく感じられる。しかし、こうしたプロセスを踏むだけではイノベーションは起きないだろう。
イノベーションを導くための本質的なプロセスモデルを考えた結果、紺野氏は野中郁次郎氏の「知識創造理論」のなかで、デザイン思考を捉えるというプロセス構築を行っている。
人がもつ暗黙知をいかにして形式知とするか。そのためには、暗黙知を獲得する「共同化」、ニーズや意味を対話や概念化によって明示する「表出化」、発見された概念やコトを軸に新たな関係性を生み出す「連結化」、現場におけるプロトタイピングを通じて具現化や新たに得られた知識の身体化を行う「内面化」、という一連のプロセスこそが「デザイン思考のプロセス」の本質ではないかと考えている。こうした暗黙知を形式知にする「知識創造としてのデザイン思考のプロセス」をもとに、デザイン思考を作り出さないといけない。
紺野氏は、デザイン思考をどういった目的で活用するのか、どういった位置づけで行わなければいけないのかを考える必要があるという。
付箋紙を使うことだけがデザイン思考ではない。デザイン思考は、モノづくりではなくモノを通じた関係性を導くもの。さらに言えば、デザインのプロではない人がエスノグラフィーを教えてプロトタイピングを作ることはできないはず。こうした考えなしに、何のためのイノベーションかを忘れ、デザイン思考のプロセスだけを追っていてもイノベーションは起きない。
もちろん、デザイン思考だけですべてのイノベーションを起こせない。デザイン思考も、イノベーションという全体の一部でしかない。イノベーションを創発するという全体像や目的があり、そのなかで知識創造理論やデザイン思考があるという考えでデザインの役割を見つめなおし、継続的なプロセスのもとでデザイン思考を行わなければいけないという。
個人がもつ熱意あるアイデアから、新しいイノベーションが生まれることもある。例えば、デザイン思考プロセスだけではiPhoneが誕生することは難しいだろう。4つのプロセスだけがデザイン思考ではなく、もっとダイナミックに捉えなければいけない。究極的には、人間の営みから目的を導き出さなければいけない。なんのためのデザイン思考なのか。目的に基づくデザイン思考の実践こそが重要だ。
デザイン思考は表面的な認識論ではなく、存在論的な深さで思考することが大事だとし、人間の現場における営みや、現場の中における位置づけを考えなければならないと語る。