新しい事業機会を探る起点となるジョブとは、「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩」
近年、商品・サービス開発におけるアプローチ法として注目を集める「ジョブ理論」とは何か。山田氏は最新の定義として2017年8月に発行されたクリステンセンの著書『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』から引用し、ジョブについて「ある特定の状況で人が遂げようとする進歩」と紹介する。今の生活をよりよくしたいという人の欲求そのものというわけだ。
ジョブ理論が登場する前から、例えば、エジソンは「世界がいま本当に必要としているものを創るのだ」と語った。ダイソンでも「なぜそれが必要か」「どんな技術が必要か」「自分達が持つ技術やノウハウで実現可能か」を経て、「ユーザーが体験できるレベルで結果が出せるか」と問い続け、商品化に至る。優れた製品を世に出してきた両者とも「何が必要か」というゼロからの問いに始まるというわけだ。
その「何が必要か」の探索において、「ジョブ」の発見が役に立つという。山田氏は「洗濯機」を例に取り、具体的な「ジョブ」について解説する。通常、洗濯機が解決する「ジョブ」として「汚れを落とす」「匂いを落とす」などを想像するだろう。しかし「異常な暑さが続くインドで、栄養価の高い冷たい飲み物を短時間で大量に作る必要がある」という状況ならば、洗濯機が「ラッシーを作る」というジョブもあるかもしれない。つまり、ジョブを考える際には「ある特定の状況」を設ける必要がある。
例えば、中国という「ある特定の状況」では、野菜を洗うのに洗濯機が使われ、トラブルの頻発でメーカーが「野菜洗浄不可」と注意するまでになったという。一方で、「野菜も洗える洗濯機」を開発し、大ヒットに結びつけたメーカーもあったというから、商品開発に「ジョブ」の発見が有効であることが想像できるだろう。
「通常は前出の洗濯機メーカーのように『野菜を洗うな』というようにジョブを限定してしまう傾向にあり、ユーザーの真のニーズに気づきにくい傾向にある。『洗濯機とはこういうものだ』という縛りから脱却し、ジョブという観点から見直すことが大切」と山田氏は解説する。
それでは「電子レンジ」ではどうだろう。独身でコンビニ弁当を温めるだけだったのが、結婚して料理に使うようになり、子どもが生まれたら哺乳瓶の消毒にも使う、というように、「同じ人が使う電子レンジ」でも、状況の変化でジョブが変化していく。