「大切に思う知人に差し上げるプレゼントを考えるように」リサーチする
エスノグラフィのビジネス利用については、インテルやIBM、Microsoftの人類学者が発起人となって国際会議を開催し、近年ではGoogleやFacecbookなども参加して、活発な議論やノウハウ共有が行われている。
そこでの学びも含め、大阪ガス行動観察研究所が「エスノグラフィック・リサーチ」を活用するうえで最も重視しているのが「マインドセット」である。プロセスやノウハウなどのリサーチのスキルももちろん重要だが、「大切に思う知人に差し上げるプレゼントを考える時のような心」で対象に向かうことが大切なのだという。つまり、「どんなものが好きか」「どんなライフスタイルなのか」と試行錯誤し、贈って喜ばれるものを模索する。「見る」ではなく「観る」、「聞く」ではなく「聴く」スタンスでいることが重要というわけだ。
そのうえで「どういうことを聞きたいのか」という観点は持ちつつも、「こうであろう」という仮説は持たないこと。そのためにも対象者に対するバイアスを排除しておくこと。主観や評価を入れず、まずは事実・実態をしっかりと捉えることが大切だという。
また広く浅く多くの人を理解するというより、少数の対象者をより深く丁寧に理解することを目的としているのも大きなポイントだ。リサーチの内容によって、ほとんど利用していない非利用者のグループや、ヘビーユーザーのグループといったように対象を選定し、それぞれにどんな隠れたニーズがあるのか「ヒント」を見出し、そこから「仮説」を立てていく。
久保隅氏は「現場観察の際に解決のアイデアが浮かぶことは多い。しかし、まずは事実だけをまとめて、本質的な課題を見極めてから解決へ、そしてその方策へと順を追って進めていくことが重要」と語る。
つまり、血が出ているからといってすぐ絆創膏を貼ったり、包帯を巻くのではなく、その根本的な原因と治療法を見出す。事実から気付き、本質的な課題そして提供価値ビジョンへと進み、その逆ルートでコンセプトから顧客の体験、ユースシーン、製品、スペックへと落としこんでいくわけだ。