ポール・ドーアティ氏はアクセンチュアの最高技術責任者(CTO)兼最高イノベーション責任者(CIO)の肩書を持つ。同氏が共著者の一人である『HUMAN+MACHINE』(邦題:『人間+マシン AI時代の8つの融合スキル』東洋経済新報社)の内容を紹介する会見が行われた。
はじめにドーアティ氏は、現在のAIを脅威とする考え方を否定した。AIが仕事を奪う、ロボットが脅威となり人間を襲う、こうした脅威論は誤解である一方、現状のAIのアプローチを続けていれば良いという考え方も間違っていると言う。
つまり「人間 VS マシン」の対立軸で考えるのではなく、「人間+マシン」の視点こそが重要となるということだ。その人間とマシンが協力していく中間領域の世界を、ドアーティ氏は「ミッシング・ミドル」と名づける。マシンと人間が相互に関係し合うことによって、人間の能力が拡張される。この拡張がビジネスの飛躍的な成長を生むという世界観だ。
そのときに重要となるテーマは「責任あるAI」という考え方である。
すでにアイザック・アシモフのSF作品の中にもロボットの原則は書かれていた。今ではより現実的なものとして「説明責任」「透明性」「正直」「公平」「人間中心」の5原則があげられる。
「AIが何かを判断するとき、その理由を人間が説明できなけれないけない。ロボットが自律的に行動をなす時、その結果に人間が責任を持たなければいけない。多くの企業はここに対する考えが足りない」(ドアーティ氏)
倫理や信頼、透明性や説明責任については、現在、デジタルテクノロジーに関わる最もホットなトピックである。現実的に、AI、ロボット、自動運転などの自律制御のアルゴリズムの実装から、医療分野の生命倫理、データ活用の倫理問題など多方面に関わる課題が浮上している。
特にAIにとっては「データの信憑性」が重要となる。これについてドアーティ氏は、「AIの公平性を担保するツール」が必要と述べる。AIに読み込ませる「学習データ」「訓練データ」をきちんと評価し、バイアス(偏見)のあるデータを切り分け、分割するといった評価ツールの開発や実用化に、アクセンチュアでは取り組んでいるという。
こうしたいくつかの課題にとりくみながら、従来の「自動化」や「再構築」の段階を超えて、ビジネスの「再創造」に取り組むべきで、日本こそがその可能性が高いことを強調する。
ドーアティ氏のスピーチを補足する形で、同書の監修者であるアクセンチュアの保科学世氏が語った。
日本こそがAIの活用面で可能性が高く、リーダーになりうるという理由として、保科氏は「少子高齢化と労働力不足」「モノづくりの優位性」「質の高いサービス・接客ノウハウ」などをあげる。
その一方で悲観的な材料として、多くの企業が「AIの活用に漠然とした不安を感じている」「スキルの習得に手をつけていない」という調査結果をあげた。
こうした中で、AIをビジネスに最大限活用し効果を発揮していくための、重要原則として提示したのが以下の「MELDS」だ。
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マインドセット(M):ミッシングミドルによる仕事を再検討することで、ビジネスに対して従来とは根本的に異なるアプローチを考える
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エクスペリメント(E):もはやベストプラクティスをコピーすることでは成功できない。実験の大部分は失敗に終わるが、それは問題ではない。むしろミスや失敗を奨励しなければならない。
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リーダーシップ(L):最初の段階からAIの責任ある使用にコミットする。そのためには、AIが意図せぬ結果や影響をもたらさないように制御することが必要
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データ(D):インテリジェント・システムを動かすための「データ・サプライチェーン」を構築する。データの鮮度を意識し、顧客満足度の低下しない速度で提供する。
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スキル(S):ミッシング・ミドルにおいてプロセスを再構築するために必要なミッシング・ミドルを埋める「人間とマシンが融合するスキル」を積極的に開発する。
これらの原則を踏まえることで、日本がAIとのコラボレーションの面で先行できる可能性が高いことをドアーティ氏、保科氏は強調した。