内製による新規事業開発の失敗とオープンイノベーションとの出会い
畠山:三井不動産で新規事業に取り組むようになった経緯を教えてください。
光村圭一郎氏(三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 統括 BASE Q運営責任者、以下、敬称略):2002年から講談社で編集者として働き、2007年に三井不動産に転職しました。最初はオフィスビルの開発部署に配属、そのあと建物の維持・管理を行う子会社に出向し、日本初の超高層ビルである霞が関ビルディングを担当します。そこで、霞が関ビルディングから現代の最新ビルに至るまで、“ビルそのもの”では差別化できないと感じるようになりました。“どう作るか”よりも“どう使うか”の方が建物の価値に影響を与えると考え、新規事業開発に関心を抱くようになります。震災やリーマンショック、技術革新に伴う社会環境の激変の兆しなどを契機に社内でもハード以外にも目を向ける機運が高まり、2012年には私も新規事業担当にアサインされました。
畠山:新規事業担当になってどのような取り組みをされていたんですか。
光村:意図したわけではありませんが、オープンイノベーションとは対極にある「クローズドイノベーション」として、自分で発案し、作って売るまでを一貫して行っていました。オウンドメディアの立ち上げや、テナントワーカー向けのアプリ作成といったプロジェクトに取り組んできたのですが、成功したといえるものは一つもありません。
畠山:なぜクローズドイノベーションではうまくいかなかったのでしょうか。
光村:自分としては良いものを作ったと思っても、顧客視点では「あっても悪くない」程度で、真のニーズに応えられなかったからだと思います。未知の事業に挑戦するにあたって、「顧客にとってなくてはならないものか」を自社だけでは十分に考えきれないと痛感しました。同じやり方を続けていても成功しないと思っていたとき、自身が責任者として立ち上げたClipニホンバシのプロジェクトを通じて「オープンイノベーション」に出会いました。このプロジェクトは、新規事業において必要な“Why”の大切さにも気付くことができ、私にとって大きな転換点となりました。