「意味のイノベーション」はビジネス上のテクニックではない
安西洋之氏(モバイルクルーズ株式会社 代表取締役、以下敬称略):最近、日本で感じることとして、ミラノ工科大学のロベルト・ベルカンティ教授の提唱する「意味のイノベーション」を語れば語るほど、どうもビジネス上のテクニックだと思われてしまうような節がある。ですから今、実はエツィオ・マンズィーニの著書”Design, When Everybody Designs:An Introduction to Design for Social Innovation”(『デザイン、誰もがデザインするとき:ソーシャルイノベーションのためのデザインの手引き』)の次作“Politics of the Everyday” (『日々のポリティクス』)を翻訳しているのです。
マンズィーニの「デザイン・モード・マップ」をもとにすると、ベルカンティが『突破するデザイン』において語ったのは主に第一象限の領域であり、マンズィーニが”Design, When Everybody Designs“と”Politics of the Everyday”で語っているのは第三・四象限の領域ですが、殊に第四象限に注目しています。そして第四象限の領域は「ノンエキスパートが意味形成に取り組むこと」ではありますが、新しいコミュニティを作るにはエキスパートの補助が必要だとマンズィーニは指摘しています。
ベルガンティの思想は、彼の本の謝辞にもあるように、マンズィーニの考え方の影響を強く受けていますが、ベルガンティは『突破するデザイン』の中で、「意味のイノベーション」は民間企業だけでなく、NGO やNPOの活動にも適応できる考え方だと言及しています。となると、やはりマンズィーニが論じる第四象限の領域にも踏み込まなければ、本来的な意味での「意味のイノベーション」に対する理解を深められないのではないか、と考えるようになったのです。
増村岳史氏(アート・アンド・ロジック株式会社 取締役社長、以下敬称略):先ほど安西さんは「アメリカのデザインは産業のために、ヨーロッパのデザインは人々のために奉仕する」とおっしゃっていましたが、最近の傾向として、日本企業はアメリカではなくヨーロッパへ視察に行くことが増え、欧州からイノベーションのヒントを求める企業が増えていますね。