インタビュー デザイン・アート・ビジネスのトライアド

経営者とは“絵を描かないアーティスト” ──言語が“封じられること”で身につくイメージ思考力とは?

ゲスト:事業構想大学院大学 教授 丸尾 聰(まるお あきら)氏【前編】

 話題書『ビジネスの限界はアートで超えろ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者で、本連載でもビジネスにおけるアート・シンキングの重要性などについて語ってくれた増村岳史氏。今回はその増村氏と、事業構想大学院大学教授の丸尾聰氏が対談。アート、デザインとビジネスの関係をさらに深掘りする。
 丸尾氏は1986年に東京藝術大学大学院を修了後、アーティストやデザイナーではなく、当時としては珍しい一般企業に就職する道を選択。以後、さまざまな立場から企業の新規事業企画から立ち上げまでを支援してきた。現在は事業構想大学院大学教授として、ビジネスパーソン向けに「発想法」の教育なども行っている。前編である本稿では、コロナ禍でアーティストの思考やアートにおける変化、振り返れば藝大時代に、“言語で思考すること”を封じられたことで身についたことなどをお聞きした。

[公開日]

[語り手] 丸尾 聰 増村 岳史 [取材・構成] 鈴木 陸夫 [画] 青松 基 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] デザイン思考 事業開発 アート思考

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今、アーティストが落語にハマる理由

増村岳史氏(アート・アンド・ロジック株式会社 取締役社長、以下敬称略):先日、元アーティストで現在はIT企業を経営されている方と、ビジネスパーソン向けの講座を企画する機会がありました。「アートを学んだ経営者」という点で丸尾さんと共通していると思うのですが、その方が最近になって藝大時代の同級生の方々(ご本人以外はプロの芸術家)とグループ展をすることになり久々に作品づくりをしたところ、粘土にハマったと仰っていました。無心になれるから意識下のものが浮かび上がってきて気づきがあるのだそうで、ビジネスパーソン向けに何かやれるのではないかと仰っていたのです。

丸尾聰氏(事業構想大学院大学教授 以下敬称略):私は常々、新規事業企画のビジネスパーソン向けに、クリエイティブな発想法や思考法を身につけてもらうため、どんな教材が効果的かを考えています。確かに粘土という教材は効果がありそうですね。今は、立体物を観察する際の「スケッチブックと鉛筆」を使っているのですが、それよりも表現の自由度が高い。また、制作中に触覚を刺激するのも良いですね。私は最近落語に注目しています。落語のセリフは言語ではあるけれども、文字ではなく声で表現し、耳からインプットされますよね。しかも、話者が何役も演じるし、時間も空間も声や音1つで自由自在に超えていける。

増村:ぼくの周りにも落語好きは多いです。知り合いの画家の一人は、このステイホーム期間中に俳句と小説を書いていたらしいんです。ぼく自身もコロナ以前はよく新宿の末廣亭に通っていて。落語は言語でインプットされるけれど、映像がどんどん浮かぶ。そこが面白いんですよね。

丸尾:私が落語に注目したのも、まさにその点です。声を聞いているうちに映像化されるし、想像力も膨らんでくる。言語を使いながら言語野(脳の大脳皮質にある言語中枢のある領域)だけでなく、視覚野(大脳皮質の一番後ろにある領域)も使う感じがする。新規事業の企画発想力を鍛えるための教材としては、そこが重要な気がしています。

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