2001年より在宅勤務制度を導入しているP&Gジャパンでは、2008年からは、育児や介護などの特別な事由がなくても、原則としてすべての社員が在宅勤務を選択できる制度を整備してきた。新型コロナウイルスの感染拡大により、日本でも多くの企業で在宅勤務やテレワークの導入が急速に広がっている現状を踏まえ、10年以上に渡って在宅勤務制度を実施する中で培ってきた、リモートワーク時における「生産性とインクルージョンを最大限に向上させるヒント」をまとめた。
テクノロジー等のハード面からではなく、それらをどのような工夫やルールで活用していけば、生産性や組織内のインクルージョンを高めることができるかというソフト面から考えた「オンライン会議の進め方」や「上司部下の関係性構築」などのコツをまとめている。
社外啓発組織「P&Gダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」
“世界を変える力、未来を育てる力(A Force for Good, A Force for Growth)”のテーマのもと、「ダイバーシティ&インクルージョン」と「環境サステナビリティ」を強化しているP&Gでは、2016年3月に、社外啓発組織「P&Gダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト」を発足。同プロジェクトでは、ダイバーシティ&インクルージョンの啓発活動と、P&Gが独自に開発したダイバーシティ&インクルージョン研修プログラムの他企業への無償提供を軸に、講演やヒアリングなども随時実施し、これまでに約400の企業・団体にノウハウを提供している。
活動1:ダイバーシティ&インクルージョンの啓発
「プレスセミナー」「アンケート調査」「シンポジウム」などで、「ダイバーシティ&インクルージョン」の意義を啓発
活動2:「P&Gジャパンダイバーシティ&インクルージョン研修プログラム」を社外に無償提供
P&Gが開発したダイバーシティ&インクルージョンの研修プログラムを、他の企業や団体に無償で提供
ノウハウ1:効果的な在宅勤務を実施するために、それぞれの社員が確認・準備しておきたいこと
業務内容
- 在宅勤務で取り組める業務内容かどうか(対面またはオフィスでのみ取り組むべき業務は何か)
- 同僚、他のチームメンバーとどのように業務を協力・分担して進めるか(お互いのコアタイムや予定勤務時間などをオンラインカレンダーで共有しておくと効率的)
- 勤務時間確認の必要性(確認する場合はどのように確認するか。業務時間以外に仕事をする必要があるかの確認)
- 業務の成果・進捗状況の測定・評価方法(上司部下間での相互合意)
実施するツール方法
- チームワーク、メンバー同士の繋がりを維持するためのコミュニケーション手段
- 在宅勤務時の環境について(適切な作業スペースがあるか、理解・把握しておくべき留意点)
- ITツール(オンラインチャット、電子メールなど)がきちんと導入されているか。また導入済みのITツール活用の知識・理解を確認。
心がけ
- 適切な自己管理のために勤務時間にメリハリをつける(例:通勤時間の代わりに仕事開始前に10分間散歩する等のルーティンを設定して実施する、あらかじめ休憩時間を仕事のカレンダーに入れておく等)
- 自分なりの工夫や上手くいっていることの共有(小さな成功例やヒントの共有は効果的、社内共有ツール等も利用)
- 自身の健康とエネルギーを維持。定期的な休憩、簡単なストレッチなどをスケジュールに組み込む。
- 家族に対するコミュニケーション(例:家族に話しかけても大丈夫な時間帯と会議などでNGな時間帯をメモに書いて共有しておく、会社のIDストラップを首からかけて「これをかけているときはお仕事中」と子供に伝える等)
- 業務上、在宅勤務が可能ではないチームメンバーにも配慮し、定期的な連絡を心がける
ノウハウ2:オンライン会議・電話会議を効果的に進めていくコツ
内容の事前共有
会議で実施したい内容や、各参加者に発表してほしいことなどを前もって共有しておくことで、参加者がそれぞれ準備することができる。
結論から話す
まずは結論から話し始める。根拠や理由はその後に続いて簡潔に。
話す速さ
いつもの会話の速度よりさらにゆっくり!表情や体のジェスチャーが見えないため、対面で話すときよりもゆっくり、はっきりと話すことを心がける。
声のトーン
気持ちやエネルギーを表すために様々なトーンで工夫を!(いつもより少しだけ大げさにしてみるといい)
キーワードの強弱
会話中、伝えたいキーワードを強調すると印象に残りやすくなる。
メモを取ること
対面で会話している時よりも中断しづらいため、メモは対面の会議のときよりも重要。
サマリーの共有
会議終了後に会議のキーポイントと結論をまとめたサマリー、各参加者のネクストステップを共有することで、共通の理解を促し、また参加者から補足を追加することができる。
カメラの活用
通信環境にもよるが、お互いの表情が見えることで効率があがる。
オンライン会議進行時の効果的なステップ
1:会議開始時
- 通話開始時にはすべての参加者が名乗ること。もし同じ場所・回線から複数名で参加する場合は、それぞれの名前を伝えること。例)「(今日の電話会議に参加しています)○○です」「○○です。○○さんと一緒に出席しています」
- ウェブ会議のシステムにログインする場合は、参加者が分かるように、フルネームを記入すること。
2:会議中
- 発言する際には、まず名乗ってから発言する。例)「(○○部の)○○です。○○についてですが…」
- 内容を定期的に要約すること。参加者の理解を一致させるのに役立つ。例)「これまでに決定したことをまとめると…」「ここまでは、○○について話し合いました。では、次に進みましょう」
- インクルージョン!会議に参加している他の出席者が発言する機会を意図的に作り出すように心がける。例)「○○の件についてAさんから何か補足がないか確認してみましょう」「Bさん、XXについて気になる点はありますか?」
- 数字を使って話す。例)「●●には、3つの理由があります」「確認したいことが2点あります」
3:会議終了時
- 今後のステップを明確にすること。例)「それでは、次の会議までにAさんが●●を、Bさんが▲▲を進めてきてください」
- 肯定的な言葉で会議を終了すること。例)「このタイミングで皆さんと状況が確認できてよかったです」「忙しい中、協力してくれてありがとう」
ヒント3:リモートワーク時における上司のためのヒント
在宅勤務とオフィス勤務で大きく異なるのは「意識的な可視化」。部下の進捗状況を把握しつつ、チームとしての目標・目的を達成するために、上司が果たす大きな役割として下記があげられる。また、上司自らがこの機会を前向きに受け止め、それを周囲に伝えることもとても重要となる。(例:在宅勤務だからできるメリットなどをしっかり伝える、働く場所が違うことを鑑みて、同じ方法や考え方では同じ結果は得られないこと、また工夫して通常以上の結果を得られたり新しい方法を学べる絶好の機会、と伝える)
個人の役割と責任を確認する
- それぞれの社員が果たすべき役割と、各自に対する明確な期待値、また目指すべき成果、いつまでに完了するべきかを確認する。最初にこの確認を行うことで、どこに重きを置いて仕事を進めればよいかお互いの認識を一致させることができる。
- 業務内容について認識を一致させ、積極的に取り組むことを期待していることを伝える。
- 業務上発生しうる可能性のある問題について確認しておくこと。(例:在宅勤務では難しい業務があるかどうか、随時部下と相談する)、また上司としてどのようなサポートができるかを伝える。
仕事内容についてチームで確認し、共有する
- 日々の個々人の業務の内容に加えて、各チームメンバーとの役割・責任と互いの仕事の連携について確認する。
- 個々人の責任範囲と、チームが達成すべき目標に紐づけてチーム全体の理解を深める。
- 定期的なチームのコンタクト時間を設定しておき、コミュニケーションを図る。
在宅勤務時に起きやすい問題にも注意する
- -対面の会話が取りづらいため、推測で物事を考えるなどコミュニケーション不足が起きていないか
- -チーム内で目標にずれが生じていないか
- -チームからの孤立感または排除感を感じるメンバーはいないか
目的設定および成果に対する期待値を定義する
- 各自が業務目標を定めるように促し、何をいつまでに達成するかを上司と部下の双方で合意することが重要。
- どのように質の高い作業を継続できるかについてガイドラインを提供する。
- 1対1の会議、またはチームの会議の頻度を決める。
- 進捗状況に対して、できていること、改善点などフィードバックを共有するタイミングやその方法についてもあらかじめ話し合う。互いに期待値が分かりやすくなり、進捗状況を生産的に管理することができる。
- 「やるべきこと」と同時に、「優先順位を落とすこと」も明確に。
リモート業務におけるインクルージョン
- 部下やチームメンバーとの関係性の構築をいつも以上に意識することが大切。対面時と比べると、挨拶や会話の機会が生じにくくなるので、部下やチームメンバーとの会話時には、業務以外の話題についても意図的に触れるようにすること。些細な話題でも、周りの状況が少しでも分かることで自分の状況を確認できて安心したり、一人で働く際に感じやすい孤独感や不安感の払拭に繋がったりする。
- 短い時間でよいので、1対1で話す時間を設定し、必要なサポートがあるか定期的なコンタクトを心がけると効果的。リモート勤務時は相手の様子が分かりにくいので、朝の挨拶や自分の空き時間などをチームに知らせるだけでも連絡が取りやすくなる。
- 通信環境にもよるが、状況に応じて「カメラ」を活用してみるのもお勧め。声だけでは分かりにくいことも表情を見れば気づくこともある。ビデオカメラをつけることに抵抗がある人もいるが、マネージャー自らが率先して活用すると自然と使いやすくなる。