なぜ大手タイヤ会社は「宇宙船の構想」という“認知バイアスの誤謬”に陥ったのか
プレゼントフォワードは、今まで多くの企業経営で選択さていた“デフォルト”の考え方だ。今日の延長線上に明日があると理解し、対応していく考え方は、ビジネスにおいても戦略立案の基本となっていた。
タイヤ大手グッドイヤー社がかつて宇宙船の構想をしたことがある。研究所の航空機部門が作ったのは、巨大なタイヤ状の宇宙ステーションだったという。NASAに提案されたものの、もちろんこのような構造は正式に採用されることはなかった。
そもそも、陸上の移動がなければタイヤである必然性はないが、それまでの乗り物に必要だったものは、未来も必要とされるはずだ、というプレゼントフォワードなロジックや思考は、組織が陥りがちな誤謬でもあり、『イノベーションのジレンマ』でも述べられている“失敗する組織の典型“だと著者はいう。
ではなぜ、今日の延長線上に明日があると考えてしまうのか。それは日々の業務を効率的に行うには、認知バイアスは肯定的に働くからだ。
しかし、認知の限界を超えた思考が求められる際、認知バイアスによって誤った判断をしてしまいがちだ。この認知バイアスに加え、社内の評価制度やインセンティブも、長期的な判断をする邪魔になる。なぜなら、既存の評価制度は現在のビジネスモデルを効率的に運営するために設計されたものだからだ。さらに、ビジネスを取り巻く外部環境も、長期的な取り組みを阻むように見えるほど、現状に合わせた設計となっていることも、私たちを未来的視座に立ちにくくしている。
ここで、長期的視座を阻む認知バイアスの代表的なものを下記に紹介しよう。
- Bounded rationality:限定合理性
- Automaticity:カチッサー効果
- Availability bias:アベイラビリティバイアス
- Confirmation bias:確証バイアス
- Loss aversion:損失回避
- Sunk cost fallacy:サンクコストの誤謬
- Normalcy bias:正常性バイアス
私たちの脳が持つこれらの“トリック”に気づくだけで議論は大きく進む。そして、通常考えている未来は、せいぜい3年から5年先だろう。戦略立案するときの未来をもっと先、例えば5年~10年あるいはさらに長期的未来を想定することで、強制的に現在の呪縛から離れた思考が可能になるという。
また、短期的に株価を上げたいと思うのなら、長期的な可能性を示すことが最短の道筋であることも述べられている。実際、株価の上昇率は利益の成長とは相関がないが、売上成長率とは高い相関が示されている。