「フューチャーバック思考」と「未来のアーキタイプ」
フューチャーバックでは、3つのフェーズでリーダーシップの指針を作り上げる。下記のように、フェーズごとに異なるダイアローグを経営幹部と重ねていく。
「フェーズ1」では、すでに起きている変化の兆しから未来の事業環境を想定することから始める。医薬品業界であれば、多くの病気が治療の対象から予防の対象になっていることは予想できるし、自動車業界であれば自動運転など、大きな地殻変動と呼べるような転機が来ることを想像できるだろう。
次に、その地殻変動が及ぼす自社への影響を評価する。ここまでは、自社が置かれている現在の状況を切り離して考えたい。また、細かく予測することには意味がないので、大まかな未来像を描きたい。そのような発想を助けるためにも本書で紹介されているのが、未来の「アーキタイプ」である。4つ提示されている未来へのアーキタイプのどれに当てはまるのかを考えることで、客観的な視座から未来の自社を捉えるのだ。
一度自社を取り巻く外部環境の未来を描いてから、自社の立ち位置を設定するのだ。
「フェーズ2」では、未来像をベースに成長戦略を描く。
未来の事業を具体化するには、「イノベーションポートフォリオ」を描くのがよい。複数の事業に取り組んでいる未来を描くには、このポートフォリオが有効だ。現在の事業から遠いものや近いもの、どのようなミックスで事業を展開するかなどを考える。既存事業の成長も見込めるとはいえ、望ましい成長と比べるとギャップがあるに違いない。このギャップは「成長ギャップ」と呼び、新規の取り組みから生み出す必要がある。
成長ギャップを埋めるような新しい事業を立ち上げるには時間が必要だ。時間が掛かるだけでなく、いくつかカギとなる資源も同時に獲得する必要があるだろう。未来の自社の在りたい姿から逆算すると同時に、マイルストーンを設定したい。身近なマイルストーンがないと、実行できないからだ。
マイルストーンを設定したら、内部で取り組むイノベーションのポートフォリオと、外部資源を買うための投資ポートフォリオを描く。資源には人材ももちろん含まれる。新しい事業に適したスキルセットを持つ人材を適宜雇用していくことが求められる。
「フェーズ3」では、マイルストーンとポートフォリオから、具体的な施策となるプログラムへと落とし込む。せっかく設定したビジョンやマイルストーンが形骸化しないよう、予算などのリソースが独立していることが望ましい。
あまりに多くの新規事業が、本業の低迷とともに予算カットされているのを見かけるが、在りたい未来像は短期的な業績で変わらないし、今取り組むべきことも変わらないはずだ。しかし、未来像が現在の引力に負けてしまうのは、脳の認知バイアスの影響なのだ。この罠に陥らないよう、築きたい未来がブレないような仕組みが必要になる。