本調査は、企業における新規事業の成功確率を高めることを目的に、各新規事業の「最重要KPI」「スケジュール遅延」「開発規模」の結果に対して、その要因となる「体制」「プロセス」「仕組み」がどのようになっていたかについて調査・分析を行ったもの。また、新規事業で設定された最重要KPIの達成状況を「成功度合い」として分析するアプローチも採用している。本レポ―トでは、これらの分析結果に加えて、コンサルティング現場での経験を踏まえ新規事業の成功・失敗に関わるヒントを解説している。
昨今、テクノロジーの革新により、業態の変化や異業種連携など産業構造が著しく変化している。加えて、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な大流行により、ビジネスも大きな変革を余儀なくされつつある。この先行きが不透明な中、新しい道を切り拓く手段として新規事業の創出は、企業にとって非常に重要であることから、クニエでは、これまでの新規事業の取り組みの中で見えてきた課題や成功要因を洗い出し、成功確率をより高めることを目指している。
調査概要
- 目的:新規事業経験者の事例をもとに新規事業の実績と要因を探り、示唆を得ること※回答者は過去に経験した新規事業から1つの事業を選択して回答
- 手法:インターネット定量調査
- 回答者数:600名
- 対象:日本全国一般企業従事者(従業員数100名以上の企業規模における新規事業経験者)
- 実施期間:2020年3月24日~3月30日
本調査結果のサマリー
(1)成功度合い(新規事業の最重要KPI達成度)
“最重要KPI達成度100%以上のケースは約2割”
本調査の対象者が回答した新規事業において、最重要KPIの上位は「利益」「売上」「新規市場・顧客の開拓」で、この3項目が全体の約7割を占める。また、これら項目の達成度が100%以上のケースは全体の約2割であった。
(2)計画スケジュールの実績
“開発スケジュールの実績が計画通りだと成功度合いが高い”
計画スケジュールの遅延発生は約4割から5割で、「試験用開発」と「開発」のフェーズでの遅延発生割合が高い。開発が遅延したケースの最重要KPI達成度“100%以上”の割合(16%)よりも、計画通りに完了できたケース(28%)が高く、開発遅延による商品やサービスの提供開始タイミングの遅れが事業の成功度合い(最重要KPI達成度“100%以上”の割合)に影響を与えていることも想定される。
(3)メンバー内の専門家や経験者の有無
“メンバーに専門家や経験者がいた方が成功するとは限らない”
新規事業を推進するメンバー内に、「顧客」「事業領域」「技術」「新規事業」の観点での専門家や経験者がいるケースは約4割から5割。一方で、メンバーに「事業領域」「技術領域」の専門家や経験者がいるケースは、いないケースよりも成功度合いが低い結果となっている。
事業領域の専門家は、新規事業を考えているにも関わらず、既存の業界の商習慣といった枠組みにとらわれ新たな価値提供を生み出しづらくなることもある。技術領域の専門家は、技術やソリューションありきの “色眼鏡”で見てしまい、顧客のペインを自分たちの都合の良いかたちで解釈してしまうようなこともある。
一方、事業や技術領域のノウハウは必要性が高いにも関わらず、充足されていない実態もある。経験者や専門家の知見は重要なものとしつつ、事業主体者として総合的に考えて知見を活用することが重要である。
(4)リーダーの関与度
“リーダーの関与が高いケースは成功度合いが高い”
企画フェーズと立ち上げフェーズでリーダーが専任のケースの最重要KPI達成度“100%以上”の割合(44%、42%)は、兼務のケース(22%、18%)よりも高い。新規事業は想定していなかったことの連続で、さまざまな場面でリアルタイムに判断ができるリーダーの関与が重要である。新規事業の現場では、メンバーの報告を聞いて判断しているリーダーよりも関与度が高く主体者となって実際に現場で関与しているリーダーの方が、事業の企画や立ち上げ準備などの質が高い傾向がある。また、企画の付議や社内調整の際の説明・質疑対応における説得力にも格段の差が出るため、リーダーの高い関与度を確保することが重要である。
(5)チームの当事者意識
“チームの当事者意識は重要”
チームの当事者意識(チームとして顧客の課題解決やニーズの実現をどうにか実現したいという想い、覚悟)が高いケースは社内調整が上手くいっており、開発スケジュールを計画通りに完了する割合も高い。
新規事業の現場では当事者意識が低いチームは受動的な“やらされ感”があったり、困難に対面しても突き進んでいく実行力や、社内外を含めた関係者を巻き込んでいくネットワーク力が不足したりしがちである。
一方、当事者意識が高いチームは新規事業に対する熱量も高く、関係者の巻き込みや推進していく実行力も高い。その結果、社内関係者からの手厚い支援も得られやすくなる。
顧客理解(共創、実験調査、観察調査、インタビューなど)の調査を実施しているケースは当事者意識が高くなる傾向にある。顧客理解の調査を通じて顧客の課題解決をどうにか実現したいという想いや覚悟も醸成される。この当事者意識が困難に対面しても突き進んでいく実行力や、社内外を含めて関係者を巻き込んでいくネットワーク力の源泉となるため、新規事業の検討プロセスにおいて顧客接点の機会を確保することは重要である。
(6)ターゲットや課題・ニーズの具体性
“具体的になっているとスケジュール遅延割合が低い”
ターゲット顧客や顧客の課題・ニーズが具体的だったケースのうち、計画通りに開発を完了した割合(50%、50%)は、抽象的だったケース(36%、37%)よりも高い。
新規事業の現場では、ターゲットや課題・ニーズが具体的になっていると社内関連組織との意識合わせや開発要件の意思決定も進めやすいことが多い。一方、抽象的な状態だと、関連組織の理解や納得が進みづらくなることや、要件も定まりづらく議論が長引くようなこともある。
(7)事業提供開始準備
“商品やサービスに気を取られ過ぎない”
事業提供開始前に、「営業体制・販売チャネル整備」「顧客サポートの整備」の準備ができているケースの最重要KPI達成度“100%以上”の割合(23%、24%)は、準備ができていなかったケース(11%、15%)よりも高い。特に、「営業体制・販売チャネルの整備」のできているケースとできていなかったケースを比較すると成功度合いに2倍の差がある。
新規事業の現場では提供内容(製品やサービス)には気を配れているが、それを顧客に販売するスキームが手薄になっていることも見受けられる。課題やニーズを把握したことで「欲しいお客さまがいるのだから必然的に売れるであろう」と思い込んでしまうケースや販売・サポートなどの準備が後回しになることがある。商品やサービスに気を取られ過ぎないよう、必要なタスクを俯瞰的に把握し、抜け漏れが無いようにタスク管理を実行することが重要である。
(8)提供開始後の事業評価の重要性
“やりっぱなしにしない事業評価の徹底が重要”
会社の仕組みとして事業開始後の事業評価の運用が徹底されているケースは約2割、運用未実施は約8割。事業評価の運用が徹底されているケースの最重要KPI達成度“100%以上”の割合(28%)は、運用されていないケース(19%)よりも高い。
新規事業の現場では、事業評価がうやむやになり、当初計画との乖離がありつつも必要な軌道修正が行われていないことがある。担当者としては失敗とみなされることへの抵抗から、なかなか実態を表に出さないこともある。会社として計画との乖離を “学び”の機会として捉え、徹底した事業評価の運用を実行することが重要である。